二日目の夜は、
王城での正式なマスカレード舞踏会。
王族・貴族・外交官が招かれる場だが、
フィリップはウィリアム王の客として出席していた。

一方、
新聞記者であるミレーヌも、
取材目的で訪れていた。
仮面をつけて会場の片隅に立つ。
すると偶然、
視線の先に見覚えのある姿を見つける。

――黒い仮面の下、堂々と談笑する男性。
昨日意気投合したフィルではないか。
しかも彼の相手は、なんとウィリアム王。

2人の様子を凝視するミレーヌに
招待客の1人が声を掛ける。
「あの方をご存じ? ハイドランジアの皇太子の息子フィリップ殿下だよ。まだ若いけれど、各国で学びを積んでいるらしい。」
その言葉を聞いた瞬間、
ミレーヌの胸に冷たい衝撃が走る。
「……王子? あの人が?」

昨夜、自分と同じ目線で語り、
自分と同じ一般人だと思っていた彼。
それが、世界でもっとも強大な王国の王子――。
彼女はその場を離れ、
胸の奥に芽生えた“距離”をどうすることもできなかった。