マグノリア王国の援軍が到着したことで
戦は速やかに終結した。
マグノリアが加勢すればこちらに勝機なしと
敵はあっさりと撤退したのだ。

村は無事に守られたが、
残ったのは焦げた家々と、
祈りのような静寂だけだった。

マグノリア王国の援軍の指揮をするのは
ファーレンハイト辺境伯。
彼の妻がダンデリオン大公国の大公家の出身らしい。
ファーレンハイト辺境伯は
部下たちにテキパキと指示を出し、
戦後処理を行っていく。

彼はフィリップとミリアのもとに来た時、
声にならないような声で叫んだ。
「ミリア様っ!」
ミリアの亡骸を揺さぶり、
反応がないことを確認すると
がっくりと項垂れた。
「ミリアは辺境伯の知り合いなのか?」
「知り合いも何も……私の妻の姪にあたる女性だ。つまり彼女はダンデリオン大公国ファルネーゼ家の方なのだ。」
初めて知らされた事実にフィリップも驚愕する。

ミリアはこの国を治める大公家の分家の姫だったのだ。
昔から信心深かったミリアは
戦いで傷つく国民たちの姿に心を痛め、
平和を祈るために
幼い頃から修道女を志した。
家族の反対にあうも彼女の意思は変わらず、
成人した後に半ば家出同然で出家したのだった。

確かにミリアの言動は上品で、
上流階級の出なのだろうと感じさせるものだった。
国を治める家に生まれたというのに、
その身分に胡座をかき、威張り散らしていた自分と
国民を想い、平和の祈りのために人生を捧げた彼女。
ミリアの生き様を思うにつけ、
フィリップはこれまでの自分を恥ずかしく思い、
彼女に誇れる自分になろうと
決意を新たにした。