数日後、
北の国境に動きがあるとの報せが入る。
再び戦が始まるかもしれない。
修道院のある村は、最前線に位置しており、
村人たちは緊張感に包まれていた。

フィリップは素性を隠したまま、
村人たちをまとめ上げる。
避難経路を作り、負傷者のための拠点を整え、
元兵士たちと共に村の防衛を指揮した。

「俺はこの国の人間じゃないが……ただ守りたいんだ。それだけだ。」
そう言って、彼は剣を取る。
王子としてではなく、ひとりの男として。

村の平穏は突如として崩れ去る。
夜明け前、霧の中から敵兵が押し寄せたのだ。
炎が村を染め、悲鳴と怒号が響く。
フィリップは先頭で剣を振るい、
子どもたちを守るために戦った。

レオもその姿に奮い立ち、
他の孤児たちを避難させながら戦う。
なんとか敵兵を押し返し、
戦いも終幕に持ち込まれようとしたその時。
混乱の中でミリアが子どもを庇い、
胸を槍で貫かれてしまった。

ミリアはその場にドサリと崩れ落ちる。
おびただしい出血が彼女の修道服を
赤く染め上げていく。
「ミリアッ!!」
倒れた彼女を抱きとめたフィリップの手に、
温かな血が広がった。
彼女はかすかに微笑む。
「あなたのような人が……国を導く人になってほしかった……」

深く息を吐き、胸の上で手を組むと、
彼女の瞳は静かに閉じられた。
呆然とするフィリップの背中の向こうで
戦の音が遠く霞んでいった。