私と彼と彼のアンドロイド

『男から見て、好きな女がそばにいて一年も手を出さないとかありえない』
 傷口に塩を塗りこまれ、音緒はソファに倒れ込んだ。
 ダメージが大き過ぎて、なにも言えない。魂が体から抜けていくかのようだ。

『先輩、最悪。すべての男代表みたいに言うのやめてください』
『男のマンガ描いてるわりに男心わかってねーやつに言われたくねーよ!』

『音緒の気持ちを考えてください!』
『変に期待させるほうが不誠実だろ。最終的に傷付くのは秋地だ!』
 希世と大翔の口論を見て、音緒は慌てて書き込みする。

『心配させてごめんね』
『私は大丈夫だから、ケンカしないで』
 連続で書き込みをすると、返事はすぐに来た。

『ケンカじゃないよ。無理しないでね』
『なんかあったら言えよ』
 ふたりからのメッセージに、ほっとして礼を言い、メッセージアプリを閉じる。

 ただ愚痴を言いたいだけだったから、こんなふうに白熱してしまうのが予想外だった。
 軽々しく言っちゃダメだな、と反省していると、大翔からの個別のメッセージが届いた。

『さっきはごめんな。言いたいことあれば言ってくれ。いくらでも聞くから』
 大翔の優しい言葉に、音緒の心にぐっと込み上げてくるものがあった。

『デートの練習とか、いつでも付き合うぜ!』
『なんちゃって!』と犬が笑っているスタンプが続き、和ませようとしてくれる彼の優しさに、自分のふがいなさを感じた。

『ありがとう』とスタンプを返し、スマホをぎゅっとにぎる。
 いつまでも愚痴を言ってるだけじゃダメだ。自分で頑張らないと。
 そう思った音緒ははっとした。

「そうだ……!」
 よし、と拳をにぎった音緒は部屋に戻ってクローゼットを開けた。