私と彼と彼のアンドロイド

「そ、そんなプログラムは組んでないぞ!」
「プログラムではないよ。彼女を愛しているという事項はすでに入力済み。命をかけてでも惜しくないほど愛している。さらに言うなら、僕の人格はあなたを模倣して設計されているから、本体と結論が同期するのは当然の帰結だ。仮に彼女が愛する人物だという基礎情報がなかった場合でも、自己学習により彼女を愛するようになっただろう」
 説明するセカンドは、どことなくどや顔をして見える。

「AIが愛を語るな! セカンドは書斎に入って待機!」
「光稀は嫉妬深いな。またね、音緒ちゃん」
 セカンドは靴を脱いで彼の書斎へ向かって歩いて行く。

「ごめんね、音緒ちゃん。あんな不良品は封印しておくから安心して」
「不良品……だったんだ」
 音緒はがっくりとうなだれる。
「僕はいったん研究所に戻るから」
 動揺しているような彼は、慌てたように玄関から出て行く。

 音緒は半ば呆然とそれを見送ってから、はあ、とため息をついて上がり框に座り込む。
「愛してるって言うセカンドが不良品なら……愛してないってことだよね。期待もできないのかな。セカンドは嫉妬って言ったけど、それもきっと違うよね」
 膝に顔を埋め、音緒はしばらく、動けなかった。



 夜、光稀の帰りは遅かった。残業の連絡が来ていて、だからひとりで食事を済ませた音緒は、リビングのソファに膝を抱えてスマホを見ていた。
 音緒は希世と大翔の三人だけのメッセージグループにセカンドが勝手に来たことを書いた。
『セカンドが愛してるって言ったら慌てて止めてたの。やっぱ私を愛してないってことだよね。不良品って言ってたし』
『ロボットが想定にないことをしゃべり出したら焦るのは普通じゃない?』
 と希世から返信が来た。