「就職先にアピールできる内容かどうかとか、就職に有利かどうかで決める人もいるけど卒論のテーマとかゼミでやりたいことで決めたほうがいいと思うぞ」
「思いつかないなあ」

 大翔の忠告に、音緒はうーんと考える。心理学を選んだのは、様々な学部学科がある中で一番興味があったからで、家から通える範囲で大学を決めた。同じ心理学でも大学によって違うと知ったのはあとになってからだ。こういうところが世間知らずでダメだな、と自分で思う。 そんなふうだから、ゼミでやりたいことと言われてもいまひとつ思いつかない。

「そういえば、希世、マンガを教えてる大学にはいかなかったんだね」
「あんまりマンガばっかになると視野が狭くなりそうでさ。テクニックを学ぶのはほかでもできるし」
「希世はしっかりしてるなあ」
 音緒のスマホがピロンと鳴り、彼女は確認する。

「午後、休講になっちゃった」
「一緒に部室行く? 私は部室でマンガ描くけど。先輩は?」
 希世が音緒と大翔に聞いた。希世は空きゴマなのらしい。

「マンガ読みに行く。秋地は?」
「私は……」
 答えようとしたときに、ピロン、とスマホが再びの着信を伝えた。
「ちょっと待ってね」
 スマホを見た音緒は首をかしげる。

「光稀さんから。家に帰ったけど鍵がないから開けてくれって」
 メッセージアプリではなくメールでの連絡だった。しかもこんな時間に、不思議な気がする。