食事を終えた音緒たちはそのまま雑談をかわしていた。
「先輩ってゼミでなにやってんでしたっけ」
「江戸文学がどーたらこーたらってやつ。なんで?」
 希世の質問に大翔が聞き返す。

「三年になったらゼミがあるじゃないですか。私はBLカルチャーについてひたすら述べたいけど、どのゼミがいいですかね。」
「BLはどこもやってないぞ」

「そこはそれ、なんとかこじつけて。江戸なら衆道(しゅどう)について書けばなんとなるかな。でも先輩と同じゼミは嫌だ……」
「たいがい失礼だよな」
 大翔はあきれたように苦笑し、音緒は首をかしげた。

「衆道って?」
「簡単に言うと男性同士の恋愛。平安とかの昔っから当たり前にあったらしいのよ。キリスト教では男色は禁止だからね、開国後の近代化の波で禁止になったんだよ」

「知らなかった!」
「音緒はなにゼミにするの?」
「私はまだなにも考えてないの」
 学科が違うから、希世に相談もできない。

「ゼミなしでも卒業できるし、就職しないならあんまり無理しなくてもね」
「個人的にはゼミに入らないと大学にきたかいがない気がする」

 振り返ってみると、自分はずっと受け身だった気がする。希世にも待ちの姿勢だと指摘された。自分から動けるようになりたいし、そのためにはちゃんとゼミに入って論文を書いた方がいい気がする。自分で調べる、考える、仕上げるという、自分がやらなくてはなにも結果が残せない作業が入るのだから。