私と彼と彼のアンドロイド

「……見た?」
「ごめん、ちょっとだけ」
 見てはいけないものを見た気分で、光稀は軽く頭をかく。

「これは友達が描いてるBLマンガなの。感想を聞かせてって言われて……」
「BL……そういうのがあるんだね」

「友達はマンガ家を目指して本気でがんばっててすごいの! これはネームって言って下描きの下描きみたいなものなの」
「そうなんだ、マン研にいるんだもんね」
 はは、と笑って光稀は席につく。が、内心は複雑だった。

 もしかして僕とアンドロイドがそういう関係だと思われてる? だけどそしたらあのときのキスは?
 必死に平静を装って食べた食事は、いつもと違ってまったく味がしなかった。



 翌日、パソコンに向かっていた光稀は祥吾に声をかけられてのろのろと顔を上げた。
「いつも早く帰りたがるのに、残業か」
「帰ってもどういう顔をしていいのかわかんなくて……本当は早く帰って彼女の手料理が食べたい」

「ケンカしたのか?」
「ケンカのほうがまだいいかも……そういえば一度もケンカしたことないなあ」
 光稀のため息は今日も深くて、祥吾は苦笑した。

「余裕のある大人のふりって、つらくね? 結婚したんだし、自分をさらけ出しても許されるだろ」
「所長は僕を信じて娘を託してくれたんだから、彼女につらい思いをさせたくない」

「ストレスたまりそうな結婚だな。いっそ別れたら? 若くて美人なんだろ、俺がもらってやるよ」
「断る!」
 即答で怒鳴られ、祥吾はのけぞった。
「だいたい、そんな言い方は失礼だ。彼女はものじゃないし、僕が彼女を大好きなのは祥吾だって知ってるくせに!」
 すさまじい剣幕に、祥吾は彼と距離をとるように両手を彼に向けた。