翌日、研究所に出勤した光稀は深々とため息をついた。
「また奥さんのことで悩んでるのか?」
同僚の丘山祥吾に聞かれて、光稀は顔を上げた。
精密機器は埃が大敵であり、研究室は無菌室もかくやというほど清潔が保たれている。
その部屋で、白衣の自分たちの前には光稀にそっくりのアンドロイド、セカンドが背筋を伸ばして椅子に座った状態で待機している。上半身は裸で、背中からはコードがパソコンに繋がっていた。うなじには目立たないようにつけられた緊急停止スイッチがある。
「ロボットやアンドロイドって恋愛対象になると思うか?」
光稀の言葉に、祥吾は苦笑する。
「無生物に恋をする現象もあったと思うけど。日本語で対生物愛、英語でオブジェクト・セクシュアリティだっけか」
「あああ、どうしよう。こんなアンドロイド作るんじゃなかった!」
頭を抱える光稀に、祥吾はきょとんとする。
「奥さんがアンドロイドに惚れたってことか?」
「もしそうなら僕はどうしたらいいんだ!」
「そもそもなんで作ったんだよ」
「彼女好みの男になりたくて……でも自分では恥ずかしいから、こいつに探らせようかと。スパダリってやつになりたかったんだ」
「よく予算が通ったな。めんどくせーやつ……」
祥吾はドン引きしながら言う。
「なあ、どうしたらいいと思う?」
「知らねーよ。仕事しろよ」
突き放す祥吾に、光稀はただただ深くため息をついた。

