「変なことはされてない?」
「大丈夫」
 音緒はどぎまぎしながら答える。まさか自分がアンドロイドとキスをしかけたなんて、しかもそれを光稀に見られるなんて、予想外な上に恥ずかしすぎて頭が爆発しそうだ。

「ごめん。僕がプログラムを失敗していたのかも。すぐに修正するから」
「……うん」
 言い訳をする暇もなく、彼に謝罪されてしまった。
 失敗ということは、セカンドが「光稀が音緒を好きだ」と言ったのは、間違いだったということだろうか。

「ごはん、作ってくれたんだね」
「セカンドが作ってくれたの」

「となるとお手伝いアンドロイドとしての可能性を考えた方がいいのか?」
 ぶつぶつ言いながら彼は書斎に向かい、その背が消えると音緒はがくっと肩を落とした。

***

 食事を終えてお風呂も終えた光稀は、セカンドのデータをパソコンで見ていた。彼の視界なので、音緒が映っている。
「音緒さんは優しいですね。だから好きなんです」
 彼がそう言ったシーンで、光稀は思わず映像を止めた。

「なんてこと言うんだ!」
 光稀は頭を抱える。
 音緒はなんと答えたのだろう。この先の展開が怖くて、とうてい見られない。

「僕の願望が出過ぎだ」
 データを遡ると、彼女の部屋にセカンドが侵入しているのが見えた。
「なんてことしてるんだ!」
 画像を止めようとするが、つい気になって見てしまう。
 セカンドは彼女の本棚のマンガを手にとり、読み始めた。次々と読み漁ったのち、「学習した」と呟く。

「マンガを参考にしたのか……学習元がマンガ……いや、彼女の理想を知るにはそのほうがいいのか?」
 うーん、と腕組みをしてセカンドを見る。
 待機状態のセカンドは今、無表情で虚空を見つめている。

「もし彼女がこいつを好きになったら……」
 光稀はうわああ! と頭をかきむしる。
 その夜、各自の寝室で横になった音緒と光稀は、ふたりともセカンドにもんもんとしながら寝ることになったのだった。



第二話 終