私と彼と彼のアンドロイド

「先にお風呂にしますか?」
「そうしようかな」
「一緒に入りましょう」
 音緒は目を丸くして彼を見た。

「夫婦ですから、いいですよね?」
「アンドロイドがお風呂に入るの?」

「いけませんか?」
「ダメじゃないけど……でもお風呂はひとりで入るので!」
 音緒は逃げるようにキッチンを出た。
 彼は追いかけて来なかったので、自室に入ってどきどきする胸を抑える。

「おかしくない? 本当に彼の人格が入ってるの?」
 眼鏡越しの目はまばたきがほとんどなかったのでアンドロイドなのは確かだろうが、光稀の人格が入っているとは思えない言葉に動悸が止まらない。

 お風呂を出てホームウェアでダイニングに行くと、温めた料理を並べているセカンドがいた。
「すごいごちそうだね」
 目の前に並ぶのはオニオングラタンスープにグラタンにアボカドのパスタ、ハンバーグにステーキ、サラダが三種類に唐揚げ。白いご飯はつやつやだ。

「女性が好きな料理をリサーチして再現しました。味見ができないのでレシピ通りにしか作れません」
「ありがとう。でもすごいとりあわせになってるよ。全部食べたらカロリーがすごいことに」

「学習途中ですので、申しわけありません」
 しゅんとするセカンドに、音緒は慌てて続ける。
「残ったら明日食べるから落ち込まないで」
「音緒さんは優しいですね。だから好きなんです」
 音緒は飲みかけていたお茶を噴いた。