私と彼と彼のアンドロイド

「音緒ちゃん?」
 後ろから声がして、びくっと震えた。
 振り返ると、光稀が目を丸くして自分を見ている。
 刹那、音緒の顔にカーっと血が昇った。

「あ、あの、あの」
 なにを言ったらいいのかわからず、言葉をうまく拾えない。

「そんな格好してたら風邪ひくよ。まだ夜は冷えるから」
「はい」
 自分には色気なんかぜんぜんないんだ。落胆したものの、希世の『行動あるのみ!』という言葉が頭をよぎる。

 音緒はソファから立ち上がると、思い切って彼に抱き付いた。
 こんなの小学生のとき以来だ。思春期になってからは抱き付くなんてできなくて、彼も抱きしめてくれることなんてなかった。
 光稀は驚いて目を丸くしたあと、優しく頭を撫でた。

「なにかあったの?」
 顔を上げると、メガネの奥には慈愛に満ちたまなざしがあった。
 いつもと同じ優しさが嬉しくて、だけど色っぽいまなざしではなかったことに、落胆した。

「よかったら話してみて」
「……大丈夫」
 音緒は首を振る。まさか光稀を悩殺できなかったから落ち込んでるなんて言えない。

「ほんとに?」
「うん」
 音緒が頷くと、光稀は困惑したように首をかしげた。