「未来のロボット博士さん、私をお嫁さんにして」

 研究所の満開の桜の下で、小学四年生の高輪音緒(たかなわ ねお)は目を輝かせて秋地光稀(あきち みつき)に言った。大学生の彼は音緒から見たら充分に大人で、メガネが知的で白衣姿がかっこいい。

「ありがとう、光栄だな」
 彼は慈愛に満ちた笑顔を浮かべた。

 ときは流れ、音緒が十九歳の大学一年生のとき、三十歳の彼と結婚し神前式を挙げた。
 その後はウェイディングドレスに着替えて、緊張しているタキシード姿の彼に並んだ。披露宴会場に入場するために開かれたドアの向こうへ笑顔で歩き出す。薬指にはめた結婚指輪が照明にきらりと輝いた。

 直後。
 どかーん!
 轟音が響き、音緒は目を覚ました。

 どきどきする胸に手を当て、深呼吸をする。
「夢か……」
 いつもの自分の部屋だった。花の透かし模様が入った白い壁にピンクのラグの敷かれた床、お姫様みたいなドレッサーにライティングデスクに本棚にクローゼット。

 鏡に映った自分はいつも通りにセミロングの黒髪に平凡な顔立ちをしていた。

 パジャマのまま階段を降りて台所に行くと、ぷすぷすと煙を上げるなにかの機械があり、ぼさぼさの髪の光稀がげんなりとそれを見つめていた。頬にはすすがついて、眼鏡にはヒビが入っている。

「おはよう、光稀さん。どうしたの?」
「おはよう。また失敗しちゃった、ごめん」
 試運転では成功したのに、とつぶやく光稀の眉は悲しそうに垂れている。