控室の外、廊下の影。
蛍光灯の明かりが床に白く反射し、遠くからスタッフの笑い声や荷物を運ぶ音がかすかに響いている。
蓮は壁に背を預け、わずかに開いたドアの隙間から控室を覗いた。
視線の先には、荷物を膝に抱えたまま俯く優香。
小さく肩をすぼめた後ろ姿が、どこか心細く見えた。
(……また、ひとりで悩んでる顔してる……
俺が、あんなふうにさせてんのか……?)
指先に力が入り、手のひらをぎゅっと握りしめる。
爪が食い込む痛みが、胸の奥のざわつきを逆に浮かび上がらせた。
(璃子と話してるところ、見られた。
俺……あいつに動揺して……
優香がどんな気持ちで見てたか、考えもしなかった……)
「……悪いな……俺……」
掠れた声が喉から漏れる。
冷たい廊下の空気に、その言葉はじわりと溶けていった。
(優香は……味方だって言ってくれたのに。
なのに俺は、まだ隠して、黙って……また苦しませてる……)
ほんの一瞬、迷いが瞳をよぎる。
それでも蓮は、小さく息を吸い、静かにドアに手をかけた。
――控室の中。
優香はちょうど立ち上がろうとしていた。
ドアが開く音に気づき、振り向く。
「……大地くん……」
蓮はゆっくりと一歩踏み込み、優香の目をまっすぐに見つめた。
そこには優しさと、言葉にできない影が宿っていた。
「……帰ろう。」
たったひと言。
けれどその声には、微かな弱さが滲んでいた。
優香は驚いたように瞬きして――それから、小さく頷く。
「……うん。」
ふたりのあいだに、静かな沈黙が落ちる。
蛍光灯の低い唸りだけが、空間を満たしていた。
優香は荷物を抱えたまま、蓮の横をすり抜けるようにして廊下へ出る。
その背中を、蓮はしばらく見つめていた。
(……ありがとう。
でも、俺は……本当は――)
その先の言葉を、蓮は誰にも聞かせることはなかった。
蛍光灯の明かりが床に白く反射し、遠くからスタッフの笑い声や荷物を運ぶ音がかすかに響いている。
蓮は壁に背を預け、わずかに開いたドアの隙間から控室を覗いた。
視線の先には、荷物を膝に抱えたまま俯く優香。
小さく肩をすぼめた後ろ姿が、どこか心細く見えた。
(……また、ひとりで悩んでる顔してる……
俺が、あんなふうにさせてんのか……?)
指先に力が入り、手のひらをぎゅっと握りしめる。
爪が食い込む痛みが、胸の奥のざわつきを逆に浮かび上がらせた。
(璃子と話してるところ、見られた。
俺……あいつに動揺して……
優香がどんな気持ちで見てたか、考えもしなかった……)
「……悪いな……俺……」
掠れた声が喉から漏れる。
冷たい廊下の空気に、その言葉はじわりと溶けていった。
(優香は……味方だって言ってくれたのに。
なのに俺は、まだ隠して、黙って……また苦しませてる……)
ほんの一瞬、迷いが瞳をよぎる。
それでも蓮は、小さく息を吸い、静かにドアに手をかけた。
――控室の中。
優香はちょうど立ち上がろうとしていた。
ドアが開く音に気づき、振り向く。
「……大地くん……」
蓮はゆっくりと一歩踏み込み、優香の目をまっすぐに見つめた。
そこには優しさと、言葉にできない影が宿っていた。
「……帰ろう。」
たったひと言。
けれどその声には、微かな弱さが滲んでいた。
優香は驚いたように瞬きして――それから、小さく頷く。
「……うん。」
ふたりのあいだに、静かな沈黙が落ちる。
蛍光灯の低い唸りだけが、空間を満たしていた。
優香は荷物を抱えたまま、蓮の横をすり抜けるようにして廊下へ出る。
その背中を、蓮はしばらく見つめていた。
(……ありがとう。
でも、俺は……本当は――)
その先の言葉を、蓮は誰にも聞かせることはなかった。


