収録を終えたスタジオ裏。
照明の余熱が残る空気の中、スタッフと出演者たちの声がにぎやかに飛び交っている。
優香はケーブルを巻くふりをしながら、その視界の端でひとりの女性の動きを追っていた。
(……大地くん、控室で顔がこわばってた。
あの人――矢野璃子さん。……いったい、何を言ったの?)
璃子はメイク直しを終え、ゆっくり廊下へ出ていく。
その後ろ姿に、優香は小さく息を吸った。
「……あの、矢野さん」
廊下の角を曲がったところで、思いきって声をかける。
璃子が振り返り、艶やかな髪がさらりと揺れた。
「……岡崎さん、だったかしら?」
「はい。あの……少しだけ、お話してもいいですか?」
「ええ、もちろん」
璃子は壁に軽く背を預け、優雅な笑みを浮かべる。
その余裕のある雰囲気に、優香は胸の奥がきゅっと締まるのを感じた。
(綺麗な人……。だからこそ、怖い。何を考えてるのかわからない……)
「……さっき、控室で。大地くんと何を話していたんですか?」
「ふふ。見ていたのね」
璃子は目元だけで笑った。
その表情は柔らかいのに、どこか冷たかった。
「ただの挨拶よ。共演者同士の。それだけよ」
「でも……大地くん、どこか様子が変だったから」
優香は一歩だけ、近づいた。
「……矢野さんは、昔から……彼のことを知っているんですか?」
璃子の視線がふっと伏せられる。
まつ毛が影を作り、すぐにまた上品な笑みが戻った。
「ええ。少し前に、彼と……“一緒に過ごしていた時間”があったの」
「……一緒に?」
「そう。近い距離で、ね」
持っていたファイルを握る指に力がこもる。
胸の奥が、ざらついた痛みに満たされていく。
(……やっぱり。普通の共演者じゃない)
「でも、岡崎さん」
璃子は急に笑みを消し、まっすぐ優香を見つめた。
その瞳は、冗談も飾りもなく――ただ真実だけを突き刺すように鋭い。
「あなたが知る必要はないわ。彼は今、あなたの“大地くん”なんでしょう?」
「……っ、そう……ですけど……」
答えると喉がひりつき、続きを言おうとしても言葉が出てこない。
(……この人の言葉、全部刺さってくる……)
「いいじゃない。彼を大事にしてあげて。……私のように、ね」
璃子は軽く肩をすくめ、微笑む。
そのまま何も言い足さず、ヒールの音を響かせて去っていった。
優香は、その背中を呆然と見送った。
(――やっぱり、何かある。
でも……知ってはいけないの?
……違うよね。守りたいなら……私が知らなきゃいけない)
冷たい廊下の中で、優香の胸の鼓動が静かに、でも確かに高鳴っていた。
照明の余熱が残る空気の中、スタッフと出演者たちの声がにぎやかに飛び交っている。
優香はケーブルを巻くふりをしながら、その視界の端でひとりの女性の動きを追っていた。
(……大地くん、控室で顔がこわばってた。
あの人――矢野璃子さん。……いったい、何を言ったの?)
璃子はメイク直しを終え、ゆっくり廊下へ出ていく。
その後ろ姿に、優香は小さく息を吸った。
「……あの、矢野さん」
廊下の角を曲がったところで、思いきって声をかける。
璃子が振り返り、艶やかな髪がさらりと揺れた。
「……岡崎さん、だったかしら?」
「はい。あの……少しだけ、お話してもいいですか?」
「ええ、もちろん」
璃子は壁に軽く背を預け、優雅な笑みを浮かべる。
その余裕のある雰囲気に、優香は胸の奥がきゅっと締まるのを感じた。
(綺麗な人……。だからこそ、怖い。何を考えてるのかわからない……)
「……さっき、控室で。大地くんと何を話していたんですか?」
「ふふ。見ていたのね」
璃子は目元だけで笑った。
その表情は柔らかいのに、どこか冷たかった。
「ただの挨拶よ。共演者同士の。それだけよ」
「でも……大地くん、どこか様子が変だったから」
優香は一歩だけ、近づいた。
「……矢野さんは、昔から……彼のことを知っているんですか?」
璃子の視線がふっと伏せられる。
まつ毛が影を作り、すぐにまた上品な笑みが戻った。
「ええ。少し前に、彼と……“一緒に過ごしていた時間”があったの」
「……一緒に?」
「そう。近い距離で、ね」
持っていたファイルを握る指に力がこもる。
胸の奥が、ざらついた痛みに満たされていく。
(……やっぱり。普通の共演者じゃない)
「でも、岡崎さん」
璃子は急に笑みを消し、まっすぐ優香を見つめた。
その瞳は、冗談も飾りもなく――ただ真実だけを突き刺すように鋭い。
「あなたが知る必要はないわ。彼は今、あなたの“大地くん”なんでしょう?」
「……っ、そう……ですけど……」
答えると喉がひりつき、続きを言おうとしても言葉が出てこない。
(……この人の言葉、全部刺さってくる……)
「いいじゃない。彼を大事にしてあげて。……私のように、ね」
璃子は軽く肩をすくめ、微笑む。
そのまま何も言い足さず、ヒールの音を響かせて去っていった。
優香は、その背中を呆然と見送った。
(――やっぱり、何かある。
でも……知ってはいけないの?
……違うよね。守りたいなら……私が知らなきゃいけない)
冷たい廊下の中で、優香の胸の鼓動が静かに、でも確かに高鳴っていた。


