夜はすっかり更けていた。
海からの帰り道、ふたりのあいだに言葉はなかった。
けれどその静けさは、どこか心地よい温もりを帯びていた。
優香の部屋。
カーテン越しの街の灯りが、照明の代わりに部屋をほのかに染めていた。
窓を揺らす夜風には、まだ遠くの波音がかすかに混じっている。
ソファに並んで座ったふたりは、帰宅してからしばらく、ただ黙っていた。
それでも、その沈黙すらも心地よかった。
「……今日は、ありがとうな」
ぽつりと蓮が言う。その声には、少しだけ照れが滲んでいた。
「私のほうこそ……本当に、今日は嬉しかった」
優香はカップを両手で包み込みながら、小さく笑った。
その笑顔を横目に見た蓮は、ふと視線を落とす。
――さっき、あんなこと言っちゃったのに。
隣にいるだけで、胸がこんなに熱くなるなんて……。
彼の指先が、ゆっくりとソファの上を動き出す。
ほんの少しずつ、優香の手に近づいて――そっと、触れた。
優香の心臓が、どくんと跳ねた。
――あったかい……。
さっき海で手を握ってくれた時と、同じ温度。
「……触ってても、いい?」
その声は、どこか怯えるように震えていた。
優香はそっと手を開き、彼の指を包み込む。
「うん……」
再び沈黙が降りる。
でも今度のそれは、甘くて、夜の静けさをゆっくりと溶かしていった。
「なあ……」
蓮がぽつりとつぶやく。
「……優香の肩、借りていい?」
不意の言葉に優香は驚いたが、すぐにやさしく頷いた。
「うん。……どうぞ」
蓮の頭がそっと優香の肩に触れる。
かすかに触れ合った髪が、ふたりの距離をやわらかく教えてくれる。
――こんなに近いのに、いやじゃない。
むしろ、落ち着くなんて……不思議。
優香は、彼の髪に指を滑らせた。
そのぬくもりを確かめるように、ゆっくりと撫でる。
「……あったかいな」
蓮が小さくこぼしたその声に、優香の胸の奥に、じんわりと何かが広がっていった。
夜は深く、静かだった。
ふたりの世界は、言葉のないまま、そっとひとつの温度に溶けていった。
海からの帰り道、ふたりのあいだに言葉はなかった。
けれどその静けさは、どこか心地よい温もりを帯びていた。
優香の部屋。
カーテン越しの街の灯りが、照明の代わりに部屋をほのかに染めていた。
窓を揺らす夜風には、まだ遠くの波音がかすかに混じっている。
ソファに並んで座ったふたりは、帰宅してからしばらく、ただ黙っていた。
それでも、その沈黙すらも心地よかった。
「……今日は、ありがとうな」
ぽつりと蓮が言う。その声には、少しだけ照れが滲んでいた。
「私のほうこそ……本当に、今日は嬉しかった」
優香はカップを両手で包み込みながら、小さく笑った。
その笑顔を横目に見た蓮は、ふと視線を落とす。
――さっき、あんなこと言っちゃったのに。
隣にいるだけで、胸がこんなに熱くなるなんて……。
彼の指先が、ゆっくりとソファの上を動き出す。
ほんの少しずつ、優香の手に近づいて――そっと、触れた。
優香の心臓が、どくんと跳ねた。
――あったかい……。
さっき海で手を握ってくれた時と、同じ温度。
「……触ってても、いい?」
その声は、どこか怯えるように震えていた。
優香はそっと手を開き、彼の指を包み込む。
「うん……」
再び沈黙が降りる。
でも今度のそれは、甘くて、夜の静けさをゆっくりと溶かしていった。
「なあ……」
蓮がぽつりとつぶやく。
「……優香の肩、借りていい?」
不意の言葉に優香は驚いたが、すぐにやさしく頷いた。
「うん。……どうぞ」
蓮の頭がそっと優香の肩に触れる。
かすかに触れ合った髪が、ふたりの距離をやわらかく教えてくれる。
――こんなに近いのに、いやじゃない。
むしろ、落ち着くなんて……不思議。
優香は、彼の髪に指を滑らせた。
そのぬくもりを確かめるように、ゆっくりと撫でる。
「……あったかいな」
蓮が小さくこぼしたその声に、優香の胸の奥に、じんわりと何かが広がっていった。
夜は深く、静かだった。
ふたりの世界は、言葉のないまま、そっとひとつの温度に溶けていった。


