夜も更け、ふたりはソファに並んで座っていた。
カーテンの隙間から街灯の光が差し込み、室内をやわらかく染める。
遠くを走る車の音が、静かな空気をわずかに揺らしていた。
優香は膝の上で指を組み、そっとひとつ息を吐いた。
「私ね、小さい頃から“いい子”って言われて育ったの。
家でも、学校でも――誰の期待も裏切らないように、ずっと気を張って生きてきたの」
語りながら、胸の奥にじくりと小さな痛みが滲む。
笑うことしかできなかったあの頃。
けれど今だけは――本当の自分を、彼に見せたいと思った。
隣で静かに耳を傾けていた蓮が、そっと彼女の方を見た。
その横顔は、淡い光に照らされ、どこか切なげで美しかった。
「でも、本当は……何がしたいかも、どうしたいかも、わからなくなってた。
ずっと誰かの顔色ばかり見てたから」
小さく微笑む優香に、蓮がぽつりと問いかける。
「……今は、違うの?」
彼女は頷いた。はっきりと。
「うん。もう“いい子”じゃなくていい。
私は、自分の意思で動きたい。……大地くんを守りたいって、自分で決めたの」
その言葉に、蓮の目がわずかに見開かれた。
「……守る、なんて……俺なんかを?」
まっすぐに見つめ返す優香の瞳が、揺るぎなかった。
「うん。誰がなんと言っても、私はそうしたいと思ったの」
夜の深さが、ふたりの間にやさしく満ちていく。
蓮は視線を落とし、拳を握ったまま、かすれた声を漏らした。
「……ありがとな」
その声は、心の奥を掘り起こされるように震えていた。
(……守る、なんて。
誰かが俺にそんな言葉を言う日が来るなんて、考えたこともなかった。
三島の目と声が、何度も頭をよぎる――“宅麻大地じゃなきゃ、お前に価値はない”。
そんなふうに縛られて、息が詰まりそうで……
でも、優香は“俺を守りたい”って言った。
……バカみたいだよな。俺なんかを。でも……
今だけは、信じてみたい。
信じてみたら、少しは楽になれる気がする)
沈黙のなかで、重く張りつめていたものが、少しずつほどけていく。
蓮は小さく息を吐くと、身体の力を抜くように、ゆっくりと優香の肩へと寄りかかった。
「……大地くん?」
優香は戸惑いながらも、その重みを受け止めた。
彼の呼吸が、次第に穏やかに整っていく。
「……寝ちゃったの?」
その寝顔を見つめながら、優香はふっと笑みを浮かべた。
「ふふ……やっと、安心してくれたのかな」
そっと彼の肩に毛布をかけながら、優香は小さな声でつぶやいた。
「……おやすみ、蓮くん」
その名を口にした自分に、少し驚く。
けれど蓮は、もう静かに眠っていた。
夜の街が、ふたりの静かな呼吸を包み込んでいた。
カーテンの隙間から街灯の光が差し込み、室内をやわらかく染める。
遠くを走る車の音が、静かな空気をわずかに揺らしていた。
優香は膝の上で指を組み、そっとひとつ息を吐いた。
「私ね、小さい頃から“いい子”って言われて育ったの。
家でも、学校でも――誰の期待も裏切らないように、ずっと気を張って生きてきたの」
語りながら、胸の奥にじくりと小さな痛みが滲む。
笑うことしかできなかったあの頃。
けれど今だけは――本当の自分を、彼に見せたいと思った。
隣で静かに耳を傾けていた蓮が、そっと彼女の方を見た。
その横顔は、淡い光に照らされ、どこか切なげで美しかった。
「でも、本当は……何がしたいかも、どうしたいかも、わからなくなってた。
ずっと誰かの顔色ばかり見てたから」
小さく微笑む優香に、蓮がぽつりと問いかける。
「……今は、違うの?」
彼女は頷いた。はっきりと。
「うん。もう“いい子”じゃなくていい。
私は、自分の意思で動きたい。……大地くんを守りたいって、自分で決めたの」
その言葉に、蓮の目がわずかに見開かれた。
「……守る、なんて……俺なんかを?」
まっすぐに見つめ返す優香の瞳が、揺るぎなかった。
「うん。誰がなんと言っても、私はそうしたいと思ったの」
夜の深さが、ふたりの間にやさしく満ちていく。
蓮は視線を落とし、拳を握ったまま、かすれた声を漏らした。
「……ありがとな」
その声は、心の奥を掘り起こされるように震えていた。
(……守る、なんて。
誰かが俺にそんな言葉を言う日が来るなんて、考えたこともなかった。
三島の目と声が、何度も頭をよぎる――“宅麻大地じゃなきゃ、お前に価値はない”。
そんなふうに縛られて、息が詰まりそうで……
でも、優香は“俺を守りたい”って言った。
……バカみたいだよな。俺なんかを。でも……
今だけは、信じてみたい。
信じてみたら、少しは楽になれる気がする)
沈黙のなかで、重く張りつめていたものが、少しずつほどけていく。
蓮は小さく息を吐くと、身体の力を抜くように、ゆっくりと優香の肩へと寄りかかった。
「……大地くん?」
優香は戸惑いながらも、その重みを受け止めた。
彼の呼吸が、次第に穏やかに整っていく。
「……寝ちゃったの?」
その寝顔を見つめながら、優香はふっと笑みを浮かべた。
「ふふ……やっと、安心してくれたのかな」
そっと彼の肩に毛布をかけながら、優香は小さな声でつぶやいた。
「……おやすみ、蓮くん」
その名を口にした自分に、少し驚く。
けれど蓮は、もう静かに眠っていた。
夜の街が、ふたりの静かな呼吸を包み込んでいた。


