翌日、木曜日の夕方。
コンビニ前のベンチに浪はいつものように腰を下ろしていた。
フードを深く被り、街の夕陽をぼんやりと眺めながら、秀人が来るかどうかを無意識に確認する。
静かな期待感が、胸の奥に広がる。

遠くで巡回の足音が近づき、秀人の姿が見える。
いつも通りの落ち着いた歩き方だが、目の下にわずかに影ができ、肩の力も少し抜けている。
どうやら昨夜は寝不足だったらしい。
「今日もここにいるのか」穏やかな声だが、わずかにかすれが混じる。
浪は肩をすくめ、視線を逸らさず答える。

秀人は短く頷き、ベンチの横に立ったまま辺りを見回す。
言葉は少ないが、その落ち着いた佇まいが、いつもと変わらない安心感を漂わせる。
浪はフードの影に隠れた顔を少し上げ、通りの光と人々の動きを眺めながら、その静かな時間に身を任せる。

夕陽の光が街路樹に落ち、ネオンや車のライトが混ざる通りを、二人は短い間だけ共有する。
数分のやり取りだが、今日もまた浪には日常として心に残るひとときだった。
秀人は微笑まず、「気をつけて帰れ」とだけ告げ、静かにその場を離れていく。

五日目の夕方も、穏やかで静かな時間が二人を包み、浪は言葉を交わさなくても、秀人の存在をそばに感じながら座り続けた。
その小さな安心は、少しずつ、確かに心に積み重なっていく。