その翌日も18時、浪はコンビニ前のベンチに座っていた。
フードを深く被り、手を膝に置いたまま、通り過ぎる人々や街灯の光をぼんやりと眺める。
いつも通りの変わらぬ景色だけがそこにあった。

ほどなく坂木秀人が巡回途中で現れる。
「今日もここにいるのか」落ち着いた声は自然で、威圧感はなく、強制するような雰囲気もない。
浪は肩をすくめるだけで答え、視線を逸らさず秀人を見つめる。
言葉は少なくても、また互いの存在を確認する時間が静かに流れた。

平日の夕方、二人は自然と顔を合わせる。
浪はフードの影に隠れた表情のまま座り、秀人は距離を保ちながら声をかける。
「帰る場所はあるのか」
短く簡潔な言葉の中に、確かな重みが含まれていた。

夕暮れの光が街路樹やネオンに反射し、遠くの車の音や通りのざわめきが二人を包む。
短い出会いは、静かに積み重なり、互いの存在を濃くしていく。

互いに多くを語らずとも、微妙な距離感の中で心の確認は少しずつ増えていく。
浪はフードを軽く引き直し、視線を遠くの街に泳がせる。
秀人も微笑むことなく立ち、静かに「気をつけて帰れ」と告げる。

平日の夕方に繰り返された、短くも確かなやり取り。
互いの距離は変わらないまま、それでも少しずつ、信頼と安心の芽が静かに育ち始めていた。