十四日目の水曜夕方。
冷え込みがさらに増した風が街を抜ける頃、秀人はいつもの時間にコンビニ前へ向かった。
一昨日と同じように、ベンチには浪の姿がなかった。
店先の灯りが点り始め、人の流れがゆるやかに夜に変わっていく。
しばらく待っても、現れない。
それでも秀人は立ち上がらなかった。
手袋のない手をポケットに入れ、ただ静かに座り続けた。

10分ほど経ったころ、少し早足の足音が聞こえた。
浪だった。
息を整えるように小さく吐き、秀人の隣に腰を下ろす。

少しの沈黙のあと、いつものように「今日は元気?」と浪が言った。
秀人は、わずかに笑って「元気だよ」と返す。

その声を聞いて、浪も微かに笑ったように見えた。
けれど、目の奥はどこか遠くを見ていた。
風が吹き、コンビニの旗がぱたぱたと鳴る。
浪はその音に合わせるように小さく息を吸い、ぽつりと呟いた。

「どうでもいいと思うけどさ……
もう、あんま来ないかも」

その言葉は笑い交じりで、けれど笑いにはならなかった。
秀人はすぐには何も言えず、ただその横顔を見つめた。
浪は、視線を逸らすように空を仰ぐ。
フードの影がその表情を覆い、街灯の光が頬をかすめる。

「別に理由とかない。ただ、そう思っただけ」
そう続ける声は淡々としていたが、指先は少しだけ震えていた。

秀人は何かを言いかけたが、結局言葉にはならなかった。
冷たい風が二人の間を通り抜け、遠くで電車の音が響いた。
その音が消えるまで、浪は俯いたまま冷たくなった缶ジュースのラベルを親指でなぞっていた。