十日目の木曜夕方、コンビニ前のベンチに、2人はいつものように並んで腰を下ろす。
冷え込んだ空気が肌を刺し、落ち葉が舞う秋の夕暮れを街の向こうに眺めていた。

ぽつりと浪が口を開く。
「今日は元気？」
秀人は少し笑みを浮かべ、目を細める。
「元気だよ」

その瞬間2人の間を風が通り抜け、浪のフードがパサっと落ち、顔が一瞬顕になる。
首には広く濃い手形のようなアザが浮かび、夕陽の光に影を落としていた。
浪は慌ててフードをかぶり直す。
秀人は一瞬視線を止め、眉をわずかに寄せ、言葉を選ぶように口を開きかける。

しかし浪はその隙を奪うように、間髪入れず手元の小さな温かい缶ジュースを差し出す。
秀人は開きかけた口を閉じて、缶ジュースを受け取る。
もやもやを飲み込み、温かい缶の感触に短く小さく頷き、「ありがとう」と返す。
言葉に遮られた形で、アザへの言及はそのまま流れる。

温かい缶ジュースの存在が手元にあっても、どこか気まづく寒い。
しかし沈黙の中でも、並んで座っているひそかな心地よさは変わらない。
浪は表情を崩さず、視線を前に向け、秀人と今日も静かに時間を共有する。

夕暮れの光が街を包み、遠くで車の音が響く中、十日目の夕方は、少し寒く穏やかで落ち着いた時間がそこにはある。