転生幼女殿下の幸せ家族計画〜冷遇するなら離婚してください、おかあさまと!〜

 ものものしい装備の騎士が離宮に押し寄せるのを見て、現在五歳のアネットが三年がかりでせっせと集めた忠実な使用人たちは、即座に臨戦態勢に入った。
 にらみ合いを続ける両陣営に向かって、真っ先に口火を切ったのは、アネットだ。

「失礼なっ! 私の目の黒いうちは、お母さまに不貞なんてさせるわけないでしょう!?」

 そつなく両陣営を見下ろせる吹き抜けの上に陣取ったアネットの声に、敵方は驚いたようにざわめいた。
 どうやら彼らは『第一王女が子どもらしくないふるまいをする』ということを知らなかったらしい。つまり、アネットが信を置く使用人たちは、誰ひとりとして、主人の情報を敵方に漏らさなかったのだ、と気づいて誇らしく思うのは、後になってからの話である。

(私がしようとしていたのは、再婚相手選びだけっ! 何が悲しくて、せっかく国王が有責なのに、お母さま側にも落ち度を作って自滅しなきゃならんのよ! 手ェ出すならちゃんと離婚が成立してからにするわよ、ばーかばーかっ!)

 その時点では、アネットは内心で人には聞かせられない企みと悪口を並べるのに忙しく、すっかり頭に血の気を上らせていた。

「じぶんたちが、女といっしょにいるときに、エロいことしかかんがえてないから、おとことおんながいっしょにいるだけで、浮気だ不貞だというんでしょう!」
「ぶっ、無礼なっ! なんというものいいを……っ!」
「ぶれい? 私の方が身分がたかいのに?」
「そんな言いようをする王女がいるかっ!」
「じゃあ、国王陛下にかくにんしてみれば? 『生産元』に文句を言いなさいよ! いいえっ、私がじぶんで行くわっ!」

 ひらりと吹き抜けから身を躍らせたアネットを、階下のパトリス以下腕っぷしの強い精鋭たちが難なく受け止め、小さな身体はすっぽりと彼らの腕に納まった。
 子どもらしく抱きかかえられたまま、アネットは居丈高に言い放つ。

「バルバストル伯のやといぬしは、私よ? あなたは『王女が雇った者が王妃に手を出す不始末をした』とおっしゃった。であれば、私が、みずから、国王陛下にご説明をさしあげましょう」

 早く案内なさい、と睨みつけるアネットを前にして、押し寄せた者たちはからくり仕掛けの玩具のように、こくこくと頷きを繰り返した。