転生幼女殿下の幸せ家族計画〜冷遇するなら離婚してください、おかあさまと!〜

 ――母の再婚相手を探す。
 次なる目標を定めたアネットは、まずは婚活市場の調査にくり出すことにした。

「この国では、再婚するひとの相場はどのくらいかしら? 子どもが一人いる未亡人が再婚するのって、何歳くらいのおとこのひとが相手なの?」

 アネットが脈絡なく唐突な話題を切り出しても、もはやピエールが驚くことはない。
 少し眉根を寄せて渋い顔をしただけで、咎めることなくアネットに過不足のない情報を与えてくれた。

「は。既に子どもがいる女性の再婚、となると、女性もそれなりの年齢でしょう。そうすると、相手の男性側は五、六十代くらいになりますでしょうか」
「んん? よく分からないわ。若い初婚の男性が、自分の子どもが欲しいからって、子持ちの女性をさけるのは分からなくないけれど。五、六十代? 女性のこどもはまだちいさいのよ。そうね、おかあさまくらいのおんなのかたを考えているのだけれど」

 というか、まあ、母本人の再婚を考えているのだが。
 ピエールとて国王の命令で離宮の管理を任されている使用人である。彼に明かしたせいで、万が一にも国王の耳には入らないように、とぼかして尋ねると、ピエールは同じ内容を繰り返した。

「ですが、カレン様は既に二十歳も過ぎていらっしゃいますし」
「『もう』って? ぴっちぴちの若さじゃないの」

『カレン』とは、王妃の名だ。
 つまり、母は今、前世のアネットよりも年下の、せいぜい女子大生か新卒社会人かくらいの年齢ということで。
 それはいいとして、そんなことよりも気になったのは――。

「……待って。今まだ二十そこそこってことは、おかあさまが私を産んだのって、いくつのとき?」
「それは、十――」
「わああ、やっぱりいいや! やっぱ無し!」

 ピエールの言葉は慌ててかき消したが、アネットは頭の中でしっかり計算してしまった。
 アネットの父国王は、政略結婚の相手であるカレンに不満を覚えながらも、しっかりやることはやって彼女を妊娠させたということで。その当時のカレンは現代日本でいうところの女子高生程度の年齢だった、と。
 誰の目から見ても明らかな事実としては、ただ、それだけである。

 (価値観も違う世界でのことを責めても仕方ないけれど……国王、控えめに言っても、クズロリコンじゃないっ!?)

 アネットの中で、また一段と、父親の株が大暴落した瞬間であった。
『お母さまの理想的なお婿さんがいるかはともかくとして、少なくとも父よりはマシな再婚相手は絶対にいるでしょ!』と思わせるくらいには。

(この世界での平均寿命は分からないけれど、九十歳まで生きるのが普通ではないわよね? 五、六十代の男性にお母さまが嫁いですぐに相手が亡くなって、肩身の狭い思いをしたり、最悪、家の相続紛争に巻き込まれたりするのは、心底ごめんだわ)

 アネットは安寧を求めるがゆえに母の再婚相手を探しているのに、嫁ぎ先で新たな紛争に巻き込まれるなら、本末転倒だ。
 どうしても譲れない条件を確認して、アネットは重々しく本題を告げた。

「さん、よんじゅうだいの、妻がいない男性。できれば、ハイスぺ……有能なひとがいいわ! そういうひとに、こころあたりはない!?」
「……はて? 何のご用件で?」
「ええっと……おかあさまの再こ……私たちの生活をささえてもらうひとをさがしていてね?」
「護衛として、ということですか。ですが、有能な者は国王陛下の側仕えとして取り立てられており……」
「そういう人材はここまでまわってこない、ということね」

 国王が人材の囲い込みをするのは結構だが、それなら妻子の護衛くらい責任もって手配してくれ!……と思いつつ、頼れないものに縋っても仕方がない。
 条件を『有能とまでは言えないが見どころある人物』くらいに妥協しようかと考えていると、ピエールがぽろりと呟いた。

「……ですが、一人、心当たりがないでもありません」
「へっ?」

 挙げられた候補者とその経歴を聞いて、アネットが何度目かの『このお爺さん、何者なんだ……?』という畏怖の念を抱いたことは、言うまでもない。