真珠店の立て直しにわくわくするなんて苦労人の考えることだ。のんびり二代目社長をやっていたら立て直しなんか嫌がるだろう。私は桐生社長のそういうところがすごくいいな、と思った。
私は職人気質みたいなものに憧れがあるので、たたきあげの人に弱いのだ。
「大学生活は満喫できました?確かテニス部でしたよね」
前にテニス部で相談係をした話をしてくれた。
「ああ、私立に滑り込みで入ったんだが、周りがおっとりしたボンボンばかりで何だか落ち着かなくて。うまくその空気に馴染めなかった。テニス部に入ったんだが、そんな風だから人見知りして、部の奴らとコミュニケーションが取れなくて。見かねた部長が相談係をしてみろ、って言ってくれたんだ」
私は頷いた。
「そういう経緯があったんですね。あの人見知りが治るお話、改めて胸に刺さりました」
社長は、ふっと唇を緩めた。
「そう言ってもらえたら嬉しいよ」
少し、空に翳りが見えてきた。もうすぐ夕方になろうとしている。
「文香さん、まだ時間は大丈夫か。もしよかったら俺の実家を案内したい」
え、とドキリとした。その事は一応考えていた。契約結婚だけど、社長のご家族への挨拶は免れないだろう。それが今日とは思ってなかったけど。
「こんな恰好で大丈夫でしょうか。スーツとかの方がいいのでは?」
「いや、きちんとした風に見えるよ。それくらい柔らかいファッションで大丈夫だろう。俺に結婚を迫ってる女性陣は皆、派手でね。実家まで乗り込んでくるから父に『女は選べ』と言われてたんだ。だから文香さんは合格だと思う」
淡々と言われて、そういうものだろうか、と受け入れるしかないけれど。
忙しい桐生社長にそうそう空いた時間があるとも思えない。今日のタイミングを逃すと社長のご両親には逢えないのではないか。そんな予感がする。
「こんな恰好でもよいなら、連れて行ってください。私もご挨拶がしたいです」
私と社長は地下駐車場へ向って歩きだした。
「ご実家にはお父様とお母様が住んでいらっしゃるんですか?」
「いや、義母は俺を父が見つけ出す数か月前に病気で亡くなっている。義母がいなくなったからこそ、俺を迎え入れられたんだろう」
社長はさらりと言ったけれど、きっとつらい局面もあっただろう。出生というのはいつまでもついてくるものだ。
でもそんな生い立ちに社長は全く負けていないのがわかる。そんな生い立ちだからこそハングリーに頑張れたのではないだろうか。
最初こそ美麗な顔をした強引な人だと思っていたけれど。あの堂々とした感じは、一歩一歩、石を積み上げるようにして地位を確立指せてきた人のものだ。
私はこの半日で、少しは社長のことがわかったかもしれない。
地下駐車場から車を走らせ、社長のご実家へ向かう。
きっとすごい豪邸なんだろう、のまれないようにしなくちゃ。
一時間は車を走らせただろうか。駅前の繁華街を抜け、しばらくして大きな邸宅ばかりの住宅街が現れた。その中で洒落た飾りのある長い柵があり、美しい芝生のある広々とした庭が柵越しに見えた。庭の先に佇むお屋敷は洋風な作りで飾り窓もある。大きいけれど可愛らしさもあると眺めていたら私たちが乗った車は開かれた門を通り抜け停まった。
ここが社長のご実家なんだ。車を降りると立派な玄関まで少しスロープになっていてそこを社長と歩いていった。
「文香さん、顔が緊張してる」
社長がおかしそうに笑う。
「しますよ、こんな立派なお屋敷を見たら……!私が何かマナー違反をしたら教えてください」
真珠店のお客様にも富裕層はいるけれど、ここまで大きなお屋敷に住む人は滅多にいない。緊張と共にドキドキしてきた。
「いつものきりっとした文香さんで大丈夫だ」
そう言われても。
玄関先でスーツを着た男性に迎えられる。
「社長、お帰りなさいませ」
深く腰を折ってお辞儀をされた。
「牧田さん。会長は今日こっちにいると聞いていたけど」
「はい。二階の書斎にいらっしゃいます」
じゃあ、二階に行こう、という社長について行く。
二階にあがると、二つ目のドアを社長がノックした。
「入れ」
ドアの向こうから低い男性の声がした。社長がドアを開けると、書斎の机に座る会長と向き合う形になった。壁は一面ぎっしりと書籍が並んでいる。
会長は本に落としていた目を私たちに向けた。会長と言っても社長のお父さんなのだからまだ五十代かもしれない。髪の毛も黒々としていてがっしりした身体つきだった。会長というと隠居を連想するけれど、まだまだ現役、といった雰囲気があった。
「急にどうした。なんの用だ」
会長は太い黒縁眼鏡をしていて、眼鏡の奥の目でじろり、と睨まれてしまった。
「実は結婚することになりました。会長にご挨拶しておこうと思いまして」
社長は私の背にそっと手をあて、私を一歩前に進ませた。
「河原文香さん。河原真珠店のお嬢さんです」
「河原真珠?聞かんな」
ずばり、言われてしまった。確かにジュエリーブラッドと比べたらうちの店はすごく小さい。でもこうはっきり言われると胸が痛んだ。
「これから急成長すると思います」
社長はなめらかにそう言った。そうだ。河原真珠は再起するんだ。私もしっかりしなくては。
「河原文香と申します。よろしくお願いします」
会長は本に目を戻して言った。
「ふん。せいぜいうちの宝石をくすねられないようにすることだな」
「そんな事しません!」
頭では声を荒げてはいけない、とはわかっているのに止められなかった。
ふわ、と優しく社長に肩を抱かれた。
「今日は顔合わせに来ただけですから。これで失礼させていただきます」
「ああ。さっさと帰れ」
本から顔もあげずに言われ、私と社長はその部屋から出た。私は社長に肩を抱かれたままだ。会長の言葉にはカッとなったけれど、今は社長との距離が近すぎてドキドキしていた。
「すまない。嫌な気持ちにさせたな。でも、まあ、ああいう人だから。悪いけどこらえてくれ」
私は頷いたが、肩にかかる手が気になって仕方がない。
「あ、あの大丈夫です。歩けます」
そう言うと、社長ははっとした顔をして慌てて手を離した。
「ごめん。つい。君を守りたくて」
ぎゅん、と心臓が跳ねた。キミヲマモリタイ。まともに恋愛したことのない私にはこれまた人生初のフレーズだ。
わずかに社長と距離を開け、心臓のドキドキを落ち着かせる。やっと頭が正常に動き出し、冷静になって考える。
まず親子なのに社長が敬語を使っているのに驚いた。そしてあからさまにつっけんどんな態度……まるで嫌いな人間にする態度だ。
昼間、聞いた話では会長が社長を探し出した、という事だったのに。やっと探し出した可愛い息子ではないのだろうか。
「本当に会わせたい人は別にいるんだ。一階に降りよう」
他に?私は想像がつかず、社長についていくしかない。
一階に降りると、玄関を出た。どこに向かうんだろう、と思っているとガラス張りの温室が見えてきた。中に入ると、ほんわり温かい。たくさんの鉢植えの植物が並び、ちょっとしたジャングルみたいになっていた、
奥にタオルを肩にひっかけ帽子にオーバーオールという恰好の70代くらいの男性が見えた。
「おじいちゃん。来たよ」
社長は少し大きな声で言った。
男性は、はっ、と顔をあげてこちらを見てにっこり微笑んだ。
「おお雅敏。よう来た、よう来た」
破顔して大きな声で言われる。さっきの会長の態度とは大違いの大歓迎だ。
「文香さん。俺の祖父。そしてジュエリーブラッドの創業者だ」
社長のおじい様の近くまでやってきた。手には鍬、足元は長靴でまるで宝石店のオーナーとは思えない。
やわらかな眼差しで私のことを見つめた。
「そちらの可愛らしいお嬢さんは誰かね」
会長とは違って受け入れてもらえそうだ、と私はほっとした。
「河原文香さん。俺、この子と結婚するから報告に来たんだ」
「結婚か!ついにやったな。変な娘っ子にばかり追いかけられてたがこの子は大丈夫そうじゃな」
思い切りの笑顔で嬉しそうにおじい様が言う。
「そうだろう。河原真珠店の一人娘さんなんだ。しっかりした女性だよ」
社長の言葉にほう、とおじい様は目を見開いた。
「真珠かあ。真珠はいい。あれが貝から出てくる時の感動と言ったらないな。若い頃、養殖所にいた事がある」
「そうだったんですか」
私は嬉しくなって声を弾ませた。
「おじいちゃんは宝石に関しては誰よりも博識だよ。俺はおじいちゃんに宝石の買い付けに連れて行ってもらったことがある。いっぺんに宝石に魅了されたよ。それから仕事を丁寧に教えてもらった。おじいちゃんがいてくれたから今の俺があるんだ」
社長は嬉しそうに言った。
こんな社長は初めてだった。宝石に惹かれた頃のワクワク感は今でも健在なのだろう。社長の顔がキラキラ輝いている。
自分の売る商品を愛せるのは大事なことだといつか言っていた。まさに社長の実感なのだ。
「文香さん。こいつは仕事ばかりやってるがただの宝石狂いとは全く違う。宝石の価値を直感で見極めることができる稀な男だ。わしはこいつを買っていてね。文香さんのこともきっと幸せにするだろう。安心してついて行きなさい」
私はおじい様からの暖かい言葉にほろりと涙がにじんだ。急な結婚話で唐突なのはわかっている。だが会長から邪見にされて、気持ちはやはり傷ついていた。でも、このお屋敷にはおじい様のような優しい言葉をかけてくれる人もいる。完全なアウェイじゃないことに深く安堵していた。
私は職人気質みたいなものに憧れがあるので、たたきあげの人に弱いのだ。
「大学生活は満喫できました?確かテニス部でしたよね」
前にテニス部で相談係をした話をしてくれた。
「ああ、私立に滑り込みで入ったんだが、周りがおっとりしたボンボンばかりで何だか落ち着かなくて。うまくその空気に馴染めなかった。テニス部に入ったんだが、そんな風だから人見知りして、部の奴らとコミュニケーションが取れなくて。見かねた部長が相談係をしてみろ、って言ってくれたんだ」
私は頷いた。
「そういう経緯があったんですね。あの人見知りが治るお話、改めて胸に刺さりました」
社長は、ふっと唇を緩めた。
「そう言ってもらえたら嬉しいよ」
少し、空に翳りが見えてきた。もうすぐ夕方になろうとしている。
「文香さん、まだ時間は大丈夫か。もしよかったら俺の実家を案内したい」
え、とドキリとした。その事は一応考えていた。契約結婚だけど、社長のご家族への挨拶は免れないだろう。それが今日とは思ってなかったけど。
「こんな恰好で大丈夫でしょうか。スーツとかの方がいいのでは?」
「いや、きちんとした風に見えるよ。それくらい柔らかいファッションで大丈夫だろう。俺に結婚を迫ってる女性陣は皆、派手でね。実家まで乗り込んでくるから父に『女は選べ』と言われてたんだ。だから文香さんは合格だと思う」
淡々と言われて、そういうものだろうか、と受け入れるしかないけれど。
忙しい桐生社長にそうそう空いた時間があるとも思えない。今日のタイミングを逃すと社長のご両親には逢えないのではないか。そんな予感がする。
「こんな恰好でもよいなら、連れて行ってください。私もご挨拶がしたいです」
私と社長は地下駐車場へ向って歩きだした。
「ご実家にはお父様とお母様が住んでいらっしゃるんですか?」
「いや、義母は俺を父が見つけ出す数か月前に病気で亡くなっている。義母がいなくなったからこそ、俺を迎え入れられたんだろう」
社長はさらりと言ったけれど、きっとつらい局面もあっただろう。出生というのはいつまでもついてくるものだ。
でもそんな生い立ちに社長は全く負けていないのがわかる。そんな生い立ちだからこそハングリーに頑張れたのではないだろうか。
最初こそ美麗な顔をした強引な人だと思っていたけれど。あの堂々とした感じは、一歩一歩、石を積み上げるようにして地位を確立指せてきた人のものだ。
私はこの半日で、少しは社長のことがわかったかもしれない。
地下駐車場から車を走らせ、社長のご実家へ向かう。
きっとすごい豪邸なんだろう、のまれないようにしなくちゃ。
一時間は車を走らせただろうか。駅前の繁華街を抜け、しばらくして大きな邸宅ばかりの住宅街が現れた。その中で洒落た飾りのある長い柵があり、美しい芝生のある広々とした庭が柵越しに見えた。庭の先に佇むお屋敷は洋風な作りで飾り窓もある。大きいけれど可愛らしさもあると眺めていたら私たちが乗った車は開かれた門を通り抜け停まった。
ここが社長のご実家なんだ。車を降りると立派な玄関まで少しスロープになっていてそこを社長と歩いていった。
「文香さん、顔が緊張してる」
社長がおかしそうに笑う。
「しますよ、こんな立派なお屋敷を見たら……!私が何かマナー違反をしたら教えてください」
真珠店のお客様にも富裕層はいるけれど、ここまで大きなお屋敷に住む人は滅多にいない。緊張と共にドキドキしてきた。
「いつものきりっとした文香さんで大丈夫だ」
そう言われても。
玄関先でスーツを着た男性に迎えられる。
「社長、お帰りなさいませ」
深く腰を折ってお辞儀をされた。
「牧田さん。会長は今日こっちにいると聞いていたけど」
「はい。二階の書斎にいらっしゃいます」
じゃあ、二階に行こう、という社長について行く。
二階にあがると、二つ目のドアを社長がノックした。
「入れ」
ドアの向こうから低い男性の声がした。社長がドアを開けると、書斎の机に座る会長と向き合う形になった。壁は一面ぎっしりと書籍が並んでいる。
会長は本に落としていた目を私たちに向けた。会長と言っても社長のお父さんなのだからまだ五十代かもしれない。髪の毛も黒々としていてがっしりした身体つきだった。会長というと隠居を連想するけれど、まだまだ現役、といった雰囲気があった。
「急にどうした。なんの用だ」
会長は太い黒縁眼鏡をしていて、眼鏡の奥の目でじろり、と睨まれてしまった。
「実は結婚することになりました。会長にご挨拶しておこうと思いまして」
社長は私の背にそっと手をあて、私を一歩前に進ませた。
「河原文香さん。河原真珠店のお嬢さんです」
「河原真珠?聞かんな」
ずばり、言われてしまった。確かにジュエリーブラッドと比べたらうちの店はすごく小さい。でもこうはっきり言われると胸が痛んだ。
「これから急成長すると思います」
社長はなめらかにそう言った。そうだ。河原真珠は再起するんだ。私もしっかりしなくては。
「河原文香と申します。よろしくお願いします」
会長は本に目を戻して言った。
「ふん。せいぜいうちの宝石をくすねられないようにすることだな」
「そんな事しません!」
頭では声を荒げてはいけない、とはわかっているのに止められなかった。
ふわ、と優しく社長に肩を抱かれた。
「今日は顔合わせに来ただけですから。これで失礼させていただきます」
「ああ。さっさと帰れ」
本から顔もあげずに言われ、私と社長はその部屋から出た。私は社長に肩を抱かれたままだ。会長の言葉にはカッとなったけれど、今は社長との距離が近すぎてドキドキしていた。
「すまない。嫌な気持ちにさせたな。でも、まあ、ああいう人だから。悪いけどこらえてくれ」
私は頷いたが、肩にかかる手が気になって仕方がない。
「あ、あの大丈夫です。歩けます」
そう言うと、社長ははっとした顔をして慌てて手を離した。
「ごめん。つい。君を守りたくて」
ぎゅん、と心臓が跳ねた。キミヲマモリタイ。まともに恋愛したことのない私にはこれまた人生初のフレーズだ。
わずかに社長と距離を開け、心臓のドキドキを落ち着かせる。やっと頭が正常に動き出し、冷静になって考える。
まず親子なのに社長が敬語を使っているのに驚いた。そしてあからさまにつっけんどんな態度……まるで嫌いな人間にする態度だ。
昼間、聞いた話では会長が社長を探し出した、という事だったのに。やっと探し出した可愛い息子ではないのだろうか。
「本当に会わせたい人は別にいるんだ。一階に降りよう」
他に?私は想像がつかず、社長についていくしかない。
一階に降りると、玄関を出た。どこに向かうんだろう、と思っているとガラス張りの温室が見えてきた。中に入ると、ほんわり温かい。たくさんの鉢植えの植物が並び、ちょっとしたジャングルみたいになっていた、
奥にタオルを肩にひっかけ帽子にオーバーオールという恰好の70代くらいの男性が見えた。
「おじいちゃん。来たよ」
社長は少し大きな声で言った。
男性は、はっ、と顔をあげてこちらを見てにっこり微笑んだ。
「おお雅敏。よう来た、よう来た」
破顔して大きな声で言われる。さっきの会長の態度とは大違いの大歓迎だ。
「文香さん。俺の祖父。そしてジュエリーブラッドの創業者だ」
社長のおじい様の近くまでやってきた。手には鍬、足元は長靴でまるで宝石店のオーナーとは思えない。
やわらかな眼差しで私のことを見つめた。
「そちらの可愛らしいお嬢さんは誰かね」
会長とは違って受け入れてもらえそうだ、と私はほっとした。
「河原文香さん。俺、この子と結婚するから報告に来たんだ」
「結婚か!ついにやったな。変な娘っ子にばかり追いかけられてたがこの子は大丈夫そうじゃな」
思い切りの笑顔で嬉しそうにおじい様が言う。
「そうだろう。河原真珠店の一人娘さんなんだ。しっかりした女性だよ」
社長の言葉にほう、とおじい様は目を見開いた。
「真珠かあ。真珠はいい。あれが貝から出てくる時の感動と言ったらないな。若い頃、養殖所にいた事がある」
「そうだったんですか」
私は嬉しくなって声を弾ませた。
「おじいちゃんは宝石に関しては誰よりも博識だよ。俺はおじいちゃんに宝石の買い付けに連れて行ってもらったことがある。いっぺんに宝石に魅了されたよ。それから仕事を丁寧に教えてもらった。おじいちゃんがいてくれたから今の俺があるんだ」
社長は嬉しそうに言った。
こんな社長は初めてだった。宝石に惹かれた頃のワクワク感は今でも健在なのだろう。社長の顔がキラキラ輝いている。
自分の売る商品を愛せるのは大事なことだといつか言っていた。まさに社長の実感なのだ。
「文香さん。こいつは仕事ばかりやってるがただの宝石狂いとは全く違う。宝石の価値を直感で見極めることができる稀な男だ。わしはこいつを買っていてね。文香さんのこともきっと幸せにするだろう。安心してついて行きなさい」
私はおじい様からの暖かい言葉にほろりと涙がにじんだ。急な結婚話で唐突なのはわかっている。だが会長から邪見にされて、気持ちはやはり傷ついていた。でも、このお屋敷にはおじい様のような優しい言葉をかけてくれる人もいる。完全なアウェイじゃないことに深く安堵していた。



