学校の門をくぐると、前方で沙月が目を輝かせて声を上げた。

「蓮太郎くんがいる!」

沙月は駆け寄り、雫はその少し遅れてついていく。


こういうキラキラ系はどうも苦手だ。


「おはよー」
蓮太郎は軽く手を振り返し、にこやかに応じる。

隣には二人の少年が立っていた。

「この子はとっても可愛い私の親友ちゃん、雫です。」

沙月が私にはもったいないような紹介を三人にする。

「え、可愛い〜、俺は裕大。こっちは空、そして蓮太郎。よろしくね。」

チャラい自己紹介に狼狽えそうになる。


『雫です、よろしくお願いします。』
と静かに挨拶をすると三人の中に見覚えのある顔。


『あ、昨日の...』

その中の一人が、傘の持ち主だった。
まさかこんなに早く見つかるなんて。


雫は自然とその人を観察する。


背は高く、
吸い込まれそうなほど澄んだ瞳。


『あ...えっと空くん?昨日はこれ、ありがとう。』


本当は返したくなかったけれど、
借りたものはきちんと返さなくては。


雫はそっと傘を差し出した。

「え、でも……気に入ったんでしょ。あげるよ。」
空は自然な笑みを浮かべて、傘を押し戻す。


なんでこの人は、
昨日から私の気持ちが分かるんだろう。


私が、名残惜しそうにしてしまったのだろうか。


『あ...大丈夫だよ、貸してくれてありがとう。』


雫は少し戸惑いながらも、今度はしっかりと傘を差し出す。


そのやり取りを三人がにやにやしながら見ている。


私はこういうのは得意じゃない。
本当は傘をもらいたいけど、
早くこの場から立ち去りたい。


「いや、ほんとにあげるよ」

空は笑みを浮かべて傘を押し戻す。


『でも…昨日借りたばかりなのに…』

「うん、でも似合ってたし、気に入ったでしょ?雫ちゃんが持っててよ」

空の軽い冗談交じりの言葉に、雫はつい小さく笑う。



『…うん、じゃあもらうね、ありがとう』




思いがけない出来事に困惑したが、
貰えた傘を大事に持ち、私は沙月と教室へ向かった。