この命のすべてで、君を想いたい

「ねぇ、当日どうする? 着付け自分でできる?」


『何とか着れるとおもう、帯とかは難しそうだけど。』


「少し遠いけど、家で一緒に着させてもらお!」

『えっ?』

「お母さん、着付けめっちゃ上手だから。私も毎年お願いしてるし」

『……いいの?』


「もちろん! 雫の浴衣姿、絶対可愛いから、お母さんも喜ぶって」


そう言って沙月はスマホを取り出し、


「お母さーん、雫の浴衣も当日お願いしていいー?」と電話をかける。


電話の向こうから明るい声が返ってきた。


『いいって! “雫ちゃん楽しみにしてるね”だって!』


雫は思わず笑ってしまう。


「ありがとう……なんか、緊張するけど楽しみ」


「うん、楽しみだね。夏祭り、絶対いい思い出になるよ」


二人は駅前で手を振り合う。


雫は家に向かいながら、紙袋をぎゅっと抱きしめた。


胸の奥が少しだけ温かくて、


風が吹くたびに、週末のことを考えて微笑んでしまう。




気づけばあんなに冷たかった家の静けさもいつの間にか気にならなくなっていた。


むしろ自分の楽しみに静かに寄り添ってくれるような気さえ感じた。