残された私は、呆然とその傘を見つめる。


空は黒い雲に覆われて、、冷たい雨が降り続いている。
でも私の上には青い空が広がっている。


この傘の下にいると、少しだけ温かい気持ちになれるような気がした。



家に帰ると、静まり返った空気だけが私を迎える。


声をかけてくれる人も、笑い声も、誰もいない。

リビングのソファに座ると、ここに家族がいてくれたら――なんて、ふと考えてしまう自分がいた。



まだ、心のどこかで団欒を、温かい日常を、憧れているのだと気づく。


私にそんな資格は無いのに...



でも雨に濡れた体を傘で守ってもらったあの瞬間が、今、胸にじんわりと戻ってくる。
少しだけ温かかったあの感覚が、ひとりの家の冷たさの中で、ささやかな救いになる。



それでも、現実は変わらない。
家の中は静まり返り、私の願いは遠くの青空の下に置き去りにされている。





何故か私はこの日を、一生忘れないだろうと思った。