この命のすべてで、君を想いたい

膝の上で指をぎゅっと握る。
胸の奥で、何かがきしむように痛い。


少しの沈黙のあと、雫は口を開いた。
声が震えて、自分のものじゃないように感じる。



『……私が小学生のころ、家で事故が起きたの』

空は黙って、ただ聞いている。
その優しさが、怖かった。
でも、もう逃げられなかった。


『母が少し目を離した間に……弟が熱湯を被って火傷で亡くなった。私が注意をお願いされてたけど、守りきれなかった。』


雫は海の方を見つめたまま、続けた。
波の音が、涙を誤魔化すように優しく打ち寄せる。



「“あんたのせいであの子は死んだ”って、母に毎日言われた。泣いても、謝っても、何をしても許してもらえなかった。
それでも……母は、最後には自分で――」

言葉が詰まり、
鼻の奥がツンと痛む。


空がそっと視線を落とす。
それでも雫は、ゆっくりと言葉を絞り出した。

『母が自殺したら、今度は継父に毎日責められるようになった。
“お前が殺したんだ”
“ お前が家族をめちゃくちゃにした ”
“ お前は幸せになっちゃいけない人間だ”って。』


そう、私は幸せになっちゃいけない人間だった。


『毎日殴られて、ご飯も用意してもらえなくて……とうとう父に殺されそうになったところを、おじいちゃんが止めてくれた。』


涙を我慢していたが、あの頃の記憶が鮮明に蘇ってくる、

私の目から涙が溢れ出してくる。


『おじいちゃんは……そのあと何も言わなかった。ご飯と寝る場所だけは用意してくれた。けどあとは全部、自分でなんとかしなきゃいけなかった。』


波の音が少し強くなる。
風が雫の髪を揺らし、頬を撫でていく。
そのたびに、心の奥の傷が少しずつ滲み出すようだった。

『それで何とか一人で生きてきたの。』


『だから……誰かに優しくされると、苦しい。“そんな資格ない”って思う。
空にまで、そう思われたくなくて……避けた』