あの日のことを思い出すと、痛みや後悔、罪悪感が蘇る。
弟を守れなかったこと、母を失ったこと、父の言葉……
私は幸せになっちゃいけない人間だと思う。
こんな優しい空の温もりも、私にはふさわしくない。
胸の奥の痛みと温かさが入り混じり、言葉が出ない。
視線をそらして、小さく息をつく。
心の中では、「受け止めたい、でも受け取れない」という葛藤が、嵐のように渦巻いていた。
しばらくの沈黙の後、私は立ち上がった。
『……もう、帰って』
声は震えたけれど、きっぱりと言った。
私は空の優しさを受け取れない。
空は一瞬だけ眉をひそめたが、すぐにそっとうなずき、微かに唇を噛んだように見えた。
「……本当に大丈夫? 無理してない?」
空の声には心配が滲んでいて、胸の奥にじんわり響く。
嬉しい――でも、受け止められない自分がいる。
私は視線をそらし、微かに首を振った。
『ほんとにごめん……大丈夫だから』
言葉にしたけれど、心の中ではまだぐるぐると痛みが渦巻いていた。
空は小さくうなずき、玄関へと向かう。
雨はまだ降り続いていたが、
空はまたねと短く私に声をかけると、傘もささずに走り去った。
青空の傘だけが玄関前に取り残され、光を受けしずくを落としていた。
扉が閉まると、家には再び静けさだけが戻る。
空の温もりも、優しさも、今は受け止められず、胸にぽっかりと空いた穴だけが残った。
