気まずさに慌てて私は声をかける。
『お茶でも飲む?』


空が小さくうん、と返事をしたので
私はキッチンに立ち、やかんに水を入れて火にかけた。
ガスの音が耳に入ると、胸の奥がざわつく。


お湯を沸かしていたあの日――弟が、母が――
その記憶が、まるで今ここで蘇るかのように押し寄せてきた。



手が震え、指先に冷や汗がにじむ。
急いでガスコンロの火を止めた。
肩を震わせ、涙が溢れ出す。


「雫……?」

低く呼ぶ声。
振り向くと、空がそっと立っていた。


いつの間にそこにいたのかもわからず、目が合った瞬間、思わず体が跳ねる。

『……触らないで』
咄嗟に後ずさりするけど、空の手はそっと肩に触れるだけだった。


その優しい重みで、驚きと安堵が同時に胸を駆け抜ける。


泣きたくないのに、涙が止まらず、体の震えも止まらなかった。


涙でぐちゃぐちゃの顔を隠したくても、空はそれを許さなかった。


黙ってそばに立ち、私の手を握り直してくれる。




沈黙と存在が、恐怖と孤独の中で、かすかな救いになった。