この命のすべてで、君を想いたい

夕方が、病院の屋上を薄い金色に染めていた。



雫はベンチにゆっくり腰を下ろし、

酸素カニューラを揺らしながら小さく息を整える。





ほんの数時間前まで意識が遠のいていたのに、


今の雫は不思議と目が澄んで、ちゃんと空を見ていた。





空は隣にしゃがみこみ、雫の手を包んだ。
冷たくはない。


けれど、前より細くて、骨がわかるくらい軽い。




酸素の流れる細い音が、風の中でかすかに混じる。




しばらく空を見上げていた雫が、ぽつりと言った。




『……空に、話したいことがあるの』




空は横に座り、雫の手を包んだ。
握るだけで、冷えと細さが伝わってくる。




「話して。なんでも聞きたい」



雫は目を細めて、小さく笑った。


それは、昔の元気な頃の笑顔に少しだけ似ていた。



『わたしね……空に出会えたこと、本当に幸せだった』




空は一瞬呼吸を止めた。

でも雫は続ける。
 


『だってね、空って……
わたしのこと、ずっと大事にしてくれたじゃない?』





「雫のほうが俺を大事にしてくれてたよ」




そう言った空の声が、少しだけ掠れる。




雫は小さく首を振った。





『違うよ。空が、いつも先にわたしのこと見てくれてた。』



『あの海辺でも、私を見つけてくれて。』




『私の過去も全部受け止めてくれた……』




そこで少し息を整える。
呼吸が浅くなってきているのがわかる。



『空のそういうところ、ずっと好きだったの』




“好きだった” が痛いほど響く。

ううん、違う、

今も大好きだよ。




『わたしが学校で疲れても一緒に帰ってくれて、寂しい時はいつもそばにいてくれた。空はさ、わたしがどんな顔してても、嫌な顔一つしなかったよね』



空の胸に、熱いものがじわりと広がる。




「……そんなの、雫が大事だからだよ」




雫は目を閉じ、少しだけ空の肩にもたれた。