この命のすべてで、君を想いたい

だからこそ、私は心の奥の思いを口にしたくなる。




『ねぇ、空』


「ん?」


『少しだけ、車椅子に乗ってみたいの』




空の目がわずかに見開かれ、驚きが止まらない。


私が急にすらすらと話し始めたからか、
それとも最期だと実感したからなのか。




でもすぐに伏せて、私の手をそっと握り直す。





「雫、ほんとに大丈夫?」


『今日は…動けそうな気がするの。少しの間だけでいいから。』




言葉にした瞬間、胸がぎゅっと締めつけられる。



“今のうちに”なんて言葉は飲み込んだ。
空を泣かせるわけにはいかないから。



空は黙ったまま、しばらく私を見つめる。
涙をこらえるように瞬きをして、深く息を吐いた。




「……わかった。じゃあ、看護師さん呼んでくる。でも、雫が少しでもつらくなったら、すぐ戻ろうね」



その声の震えが、優しくて胸をいっぱいにする。



『うん。ありがとう、空』



手を握り返すと、空の肩がわずかに震えた。



その感触さえ愛しくて、胸がじんわり熱くなる。




夕方の光が屋上の床を橙色に染め、風が髪をやわらかく揺らす。



空と一緒にいるだけで、世界が優しく満ちていく気がした。








言葉は少なくても、見つめ合うだけで伝わる。



出会えたこと、過ごした時間、抱きしめられた夜の温度




全部、ありがとう。




そして、私はそっと微笑む。



この時間は奇跡のように短くても、胸の奥に永遠に残ると知っているから。