俺は眠れなかった。




眠る気なんてなかった。




雫が少しでも離れてしまわないように、



腕をゆっくり動かしながら、背を撫で続けた。





雫の手の震えも、


呼吸の浅さも、


体温の減り方も、


全部がひとつずつ「終わり」を示していて、


それを受け止めるたびに胸が締め付けられる。


雫が小さく、途切れ途切れの声を絞り出した。




『……空に…触れていられるうちに…
 たくさん…触っておきたいの』



その言葉があまりにも切なくて、
呼吸をするだけで胸が痛くなる。




「触れてていいよ。ずっと。
 まだ話せるし……まだここだよ、雫」


そう言った声は、きっと俺のほうが震えていた。



何も言わなくてもわかっていたから。



雫は俺の服を掴んだまま、


その指先だけで必死に“生きようとしている”のが伝わる。



その願いを抱きしめながら、



俺は目を閉じて、噛み締めるしかなかった。