雫の指が、俺の服をぎゅっと掴んだ。



弱々しくて、か細いのに
“離れたくない”って必死に伝えてくる力だった。






『……空。
 終わってほしくないよ…』








そのひと言が胸に刺さる。



心臓の奥が、ひどく痛い。

抱きしめる腕に、無意識で少しだけ力が入った。




本当は俺だってそうだ。




終わってほしくない。
こんな夜が終わるくらいなら、明日なんて来なくていい。




でも雫の望みを否定したくなくて、
俺はゆっくり息を整えて、額をそっと寄せる。




「……終わらないよ。
 ここにいる。ずっと」

本当は違う。



終わる。



わかってる。






でも今だけは、雫を抱きしめていられる今だけは、

この嘘でもいいから言いたかった。


その嘘で、少しだけでも雫が救われるなら。




雫は俺の胸に顔を押しつけてきた。





弱い呼吸のたび、胸元に触れる感覚が細かく動いて、
そのたびに心臓が苦しくなる。




俺の鼓動を聞いてるのが伝わった。




――覚えようとしてるんだ。

――この音を、最後の記憶にしようとしてるんだ。



その事実に気づいた瞬間、喉が熱くなった。