夜の病室は、息をひそめたみたいに静かだった。
世界の音が、全部遠くに沈んでいくような、そんな静けさ。

さっきまで聞こえていたはずの点滴の滴る音も、
今はもう、どこか別の世界で鳴ってるみたいに遠い。



視線をあげると、雫がこっちを見返した。
弱々しい呼吸のたび、胸が細かく軋んでるのがわかる。



肌の温度が落ちてきている。
手足の色が少しずつ薄くなっている。


――ああ。
わかってしまう。


終わりに向かってるんだって。
もう戻れないところに近づいてるんだって。


雫も、俺も。



そのとき、雫が小さく唇を開いた。



『……空』



名前を呼ばれた瞬間、心臓の奥がぎゅっと引き絞られた。



その声が震えた理由がわかった。
苦しさじゃない。



怖さを必死に飲み込んでる震えだ。




『どうした?』




目が合った。
その瞬間、胸の奥がひどく痛くなった。




この顔を、あと何度見られるんだろう。
何度、ちゃんと目を合わせられるんだろう。




そんな考えが、容赦なく胸に突き刺さる。