「……ごめんね、寝てて……」




「謝んなって! 寝るのは大事だから」


蓮太郎が即答する。





「そうだよ。寝顔見られるなんてレアだから、むしろ得」



裕大はいつもの調子を崩さないように、あえてからかう。





みんな頑張っていつも通りにする。
“いつもの放課後の教室”みたいに.



でも――違う。
本当は全然違う。




雫の手元にある薬の量も、


点滴の管も、


荒い息遣いも、



さっきまで苦しんでいたことを物語っている。




それに気づいているのに、

みんな必死に気づいていないフリをした。

少しだけ日常を取り戻すように。





雫は話を聞きながら、うとうとしていた。
瞼が重そうで、何度も落ちかけて、



それでも会話に入ろうとする。





「……れん……太郎、また……髪切った?」




「お、気づいた! さすが雫!」




「いや、あれは寝ぼけて言ってるだけじゃ……?」




「裕大うっせぇ!」




そんなやりとりに、私もも笑った。

笑うけど、胸は痛い。




雫の声は小さくて、


返事するときの呼吸が少し苦しそうで、


言葉を絞り出すたびに、体力を吸われているみたいだった。




薬のせいで眠いのに、


それでも、雫は“私たちが来てくれている”というだけで

必死に意識を保とうとしている。