この命のすべてで、君を想いたい

空が部屋を出ていく音を聞きながら、
私はそっと目を閉じた。






空が看護師さんを呼んでくれたのか、



しばらくすると医師が病室に入ってきた。

白衣の影が近づくだけで、少しだけ緊張する。
でも、空がそばにいるだけで、それも和らぐ。





「雫さん、今日は痛みが強かったみたいですね」




医師の穏やかな声に、私は小さく頷いた。



「レスキュー薬……何回くらい使いました?」



聞かれたくない質問だったけれど、
隣で空がそっと支えるように背中に手を置いた。




「……たぶん、五回……くらい……」


医師は一瞬だけ眉を寄せ、メモを取る。



「それだと、貼るタイプの薬をもう一段階上げた方がいいですね」



その言葉に、胸がぎゅっと縮む。

医師と空が話す声が、少し遠く感じる。



「眠気が強くなってしまう可能性はありますが……痛みを抑えることのほうが、雫さんの体には負担が少ないです」



医師は私の顔を見て、優しく続ける。



「痛みに耐える時間を減らして、できるだけ楽に過ごせるように調整しましょうね」



『お願いします』



医師は頷き、すぐに処方の調整を進めてくれた。



看護師さんが新しい貼付薬を持ってきて、
そっと私の上腕に貼ってくれる。



肌がひんやりして、
次の瞬間にはゆっくりと効き始める予感がした。



実際に効くにはしばらくかかる。
でもそれも気にならなかった。




「しばらくすると楽になりますからね。
 辛かったら、すぐ呼んでください」




医師と看護師が部屋を出ていくと、
あたりが再び静かになった。




私は貼られた場所をそっと押さえながら、空のほうを向いた。




「……空……ありがとう」



本当は、まだ怖かった。



眠くなって、起きたら一日が終わってるかもしれない。
空が帰ってしまっているかもしれない。



でも、空は――



「大丈夫。眠くなったら寝ていいよ」



静かに優しく言って、
私の手を、胸に抱くみたいに包んだ。




「俺、どこにも行かないから」

その言葉が、
薬の効果よりずっと早く、
痛みを柔らかくしていく。




身体の奥の炎みたいな痛みが、
ゆっくりと、遠ざかっていくような気がした。



空の手は、あたたかくて、
握っていると安心が全身に染み込んでいく。




「空……」

名前を呼んだだけで、涙が出そうになって、
ぎゅっと目を閉じる。

空は何も言わず、
ただ私の手の甲を親指でそっと撫でてくれた。




薬のせいか、安心のせいか、
まぶたが重くなる。



眠りたくない気持ちと、
空の手に包まれた安心が引っ張り合って――




けれど、最後には安心が勝ってしまう。


『……寝ちゃいそう……』

自分で言ったのに、
言葉が震えていて、ちょっと恥ずかしかった。

空は笑って、小さく首を振る。

「いいよ。眠ってて。起きたらまた話そうな」




その言い方が優しすぎて、



胸がじんわりあたたかくなる。




私は空の手を握ったまま、



その手の温もりに寄りかかるようにして
ゆっくりと目を閉じた。



世界が静かに溶けていく中で、
最後に聞こえたのは、空の低くて落ち着いた声。

「……雫」




名前を呼ぶその声は、



痛み止めよりずっと優しくて、
ずっと強かった。




そして私は、


空の手のぬくもりを感じたまま、
静かに眠りへ落ちていった。