この命のすべてで、君を想いたい

夕日が、病院の建物の端にかかっている。





オレンジ色が柔らかくて、空気まで少しあたたかく見える。





車椅子を押してくれた空は、
私をそっと車椅子から下ろしてくれ、横に腰を下ろした。





でも――まだ何も言わない。





雫はそれを横目でそっと感じ取って、
あえて何気ない話を振った。




『ねぇ空、ここの夕日、前に一緒に見たやつよりきれいかも』



「……そうかな」




『うん。色がね、今日の方がやさしい感じする。空が一緒だからかな?』




軽く笑って言うと、空も小さく笑った。




でも、笑い方がいつもより少しゆっくりで、どこか迷ってる。




ふたりの会話は、風に混じってふわふわ流れていく。



天気のこと、病院食のプリンの話、看護師さんの雑談――
本当にどうでもいいことばかり。




でも、そういう話しかできない理由なんて
お互いとっくに分かっていた。




夕日がさらに沈み、
屋上の影が少し伸びた頃、自然と沈黙が落ちる。




風の音だけが耳に入って、
空の横顔が赤く染まる。