この命のすべてで、君を想いたい

『……どれくらい、なんですか?』




医師は言葉を選ぶように、ゆっくり口を開いた。




「はっきりは言えません。
 ただ……“季節が大きく変わる前”だと考えています」




季節。

そんな単位で命を示されるなんて、想像もしていなかった。




喉が焼けるみたいに熱くなるのに、冷たい汗が背中を流れる。




「緩和ケア病棟の説明をしてもいいですか?」




声を出そうとしても、上手く出せそうにない。俺は頷くことしかできなかった。



「緩和ケアでは病気を根治することよりも、痛みや不安を最小限に抑え、穏やかに日々を過ごすことを優先します。必要な医療処置はしっかりと行いますので、安心してください」



資料に目を落とす。



数字や薬の名前はわからなくても、
医師の言葉から雫の体が、これ以上激しい治療には耐えられないことを感じた。





「また、面会時間の制限はありません。付き添いでの宿泊も可能です。落ち着いた環境で過ごすことができます」



空は、心の奥が締め付けられるのを感じた。



雫の最後の時間が近いことを、現実として突きつけられる。




「痛みや不安を最小限にするための処置も整えています。スタッフが常に対応できますので、眠れない夜やつらい時も、安心して過ごせます」



空はゆっくりと頷く。




ここまで具体的に説明されると、言葉の一つひとつが胸に刺さる。



でも、雫がこの話を聞く前に、まず自分が理解していなければならない。




「……わかりました。ありがとうございます」



医師は穏やかに頷き、空は資料をそっと閉じた。




重苦しい現実を抱えながらも、雫を安心させられるように、微笑みを作らなければと思った。





廊下を歩きながら、空は自分に言い聞かせる。




泣きたい気持ちも、動揺も、今は押し込める。




雫が不安に思わないように、明るく振る舞うんだ、と。




病室の前に戻ると、雫は小さく笑ってこちらを見ていた。




その顔を見ると、胸がぎゅっとなる。