この命のすべてで、君を想いたい

ナースステーションに自分が聞くことを伝えると、すぐに医師は準備をしてくれた。




案内されたのは、廊下の隅にある相談室。



白いテーブルと椅子があるだけの、小さな、閉じた空間だった。




医師が座る音が妙に大きく聞こえる。






いや、音が大きいんじゃなくて、俺の鼓動が早すぎるんだ。




「最近、雫さんの様子……どう見えていますか?」

すぐに答えられなかった。




息をするだけでしんどそうで、
笑っただけで疲れたみたいに目を閉じて、
話してる途中で何度も眠りに落ちて。




毎日見ているのに、認めたくなくて、ちゃんと見れてなかった。






『……悪いですよね。前より』





ようやく言葉にすると、医師は小さく、深く頷いた。




「ええ。水瀬さんはこれまで、抗がん剤や点滴での治療、痛みを和らげる処置、栄養管理など、体に負担の少ない範囲でできることはすべて行ってきました。」



「しかし、今は身体の負担が大きく、苦痛をコントロールすること優先する段階に入っています」
 


その言葉は静かだった。
怒鳴り声よりも残酷なほど。


『……つまり、どういう……』







「緩和ケア病棟へ移っていただく準備に入ります」



時間が止まった。




呼吸の仕方を忘れたみたいに胸が固まり、
なんとか吐いた息は、喉の奥で途切れた。






『……それって……』

声が震える。情けないほど。





『もう……治療は、しないってこと、ですか』





医師は目を伏せた。




「雫さんの体が、治療に耐えられる状態ではありません。これ以上は、負担が大きすぎる」




分かっていた。


ずっと前から。


でも言葉にされると、心が現実に引きずり戻される。