この命のすべてで、君を想いたい

俺はまたすぐに雫の方へ視線を向けた。



雫は、さっきまでの落ち着いた表情とはまるで違う。



目の奥が揺れて、口は小さく開いているのに声が出ない。




ただ、こわばった指先がシーツをぎゅうっと握りしめている。




「……雫?」



呼んでも返事がない。
その沈黙がすべてを物語っていた。



怖い。


またあのときみたいな“現実”を真正面から突きつけられるのが。



雫は本当に、説明の場そのものがトラウマなんだ。



俺はベッドのそばまで行き、雫の隣に腰をおろした。






「雫、聞くの、しんどいよな?」




雫は小さく息を吸い、吐いて、でも何も言えずにただ俯く。





怖くて返事すらできない雫を見て胸が痛む。



それなら、俺が言うしかない。




「……俺が聞いてくるよ」




その一言に、雫の喉がかすかに震えた。





顔を上げたけど、言葉は出てこない。




ただ、涙の手前みたいな、必死にこらえてる顔。




俺は両手でそっと雫の手を包み込む。




「大丈夫。ちゃんと聞いて、ちゃんと持って帰るよ」




雫は少しだけ震えた唇を開いて、かすれ声で短く言った。




「……空……ごめん...お願い……」




その一言だけで、どれだけ怖かったのか全部伝わってくる。




俺は深くうなずいた。



「任された!」


軽く笑ってみせると、雫も小さく息を吐いて、肩の力が少し抜けた。




重い空気が完全に消えるわけじゃないけど、


ふたりの間にだけは、ちゃんといつもの温度が残っていた。




扉に向かう直前、もう一度だけ振り返る。




雫はまだシーツを握ってるけど、さっきよりずっと穏やかな顔で俺を見ていた。

……よし。



大丈夫だ。
雫があの顔で見てくれるなら、頑張れる。



「じゃ、ちょっと行ってくる。」


自然な一言を残して扉を開けた。




雫のためにできることなんて多くない。
でも――その少ない中に、
俺ができることがあるなら。



なんでもやってやりたかった。