この命のすべてで、君を想いたい

廊下に出た瞬間、空の表情はふっと崩れた。


けれど、泣くにはまだ早い。




ナースステーションの前を通る間、彼は必死に顔を伏せ、息を整えた。



涙があふれそうになるたび、歯を食いしばる。



エレベーターに乗り込むと、鏡に映った自分の顔があまりにも弱々しくて、ほんの一瞬目をそらした。


強くいなきゃいけない。
雫を守るために。


でも、心はもう限界に近かった。


病院を出た瞬間、夜風が容赦なく頬を撫でた。


まだ冬の気配を残す冷たさが皮膚を刺す。


その冷たさに触れた途端、空はふっと足を止める。




そして







堪えていた涙が、ぽつり、と落ちた。



そこではじめて、

空の喉から息が漏れるように震えが走った。


堪えていたものが全部あふれる。




『……なんで、雫なんだよ……』



誰もいない、暗い駐車場で。


街灯の下で。

空は顔を両手で覆って崩れ落ちた。




泣きたくなかった。




泣いたら本当に“終わりが来る”みたいで、
怖かった。

でももう、無理だった。

雫の笑顔も、

小さな震える手も、





「俺も怖い、まだ一緒にいたい」




そう言えずに飲み込んだ涙も、

全部が頭の中で溢れて止まらない。





『守れなくて、ごめん……』


声にならない声。




呼吸の仕方を忘れたみたいに、肩が震える。



雫の苦しみも、
恐怖も、
絶望も
全部受け止めたい。


彼女を抱きしめて、
「大丈夫だよ」って言い続けたい。


でもそれが“空しい希望”だって、誰より自分が分かってしまっている。



『あと少しかよ……』


呟いた瞬間、胸が裂けるように痛んだ。



未来を一緒に生きていけるはずの歳だった。


進路の話も、文化祭も、これからの季節も、全部“当たり前に”あると思ってた。


『……雫のいない世界なんて……』



声が震える。

言葉が続かない。

涙が止まらない。