「違うよ」



空はすぐに言った。
少し強く、でも優しい声で。



「俺の今に雫がいないなら、それは幸せじゃないよ」




雫の呼吸が止まった。



『……空……そんなこと言わないで……』




「言うよ。何回だって、本当だから」



空は雫の両頬を包んだ。





空の目が赤くて、でもやっぱり泣かない。



空は泣くのをぐっとこらえているように見えた。




泣いてしまったら、雫がもっと苦しむことを空はわかっている。



それを雫も知っている。





「雫は俺の一番大事な人。誰かに言われたからじゃなくて、自分で選んだ。」





「これからどうなるか全部わかってても、俺の選択は変わらない」






雫の胸が、苦しくて苦しくて締め付けられる。





『…空……そんな無理して言わないで…』





 
『ほんとは……空の隣にいたいって……
 ずっと……言いたくなっちゃう……』





声が震えて、最後はかすれて消えた。






空は雫の額にそっと口づけた。




大人のキスじゃない。
恋人のキスじゃない。





── “生きろ” と願うみたいな、


── “もう大丈夫だよ” と言うみたいな、




優しくて、


悲しくて、


抱きしめたくなるほどの祈りのキス。