帰り道、靴箱の前で偶然会うことも増えた。


「また会ったね」

『……ほんとに偶然?』

「さぁ。偶然って便利な言葉」


からかうような笑顔ではなく、どこか優しい目に雫は心を掴まれる。

その笑い方を、私はもう見分けられるようになっていた。




ある日、放課後の図書館で沙月と一緒に課題をしていると、通路の向こうに空の姿を見つける。


『沙月、もう帰る?』


「ううん、蓮太郎待つ〜。雫は?」


『……もう少し残ろうかな』


なんとなく残っただけ。
でも、それがきっかけになった。



空が席を見つけ近づき、私に声をかける。


「雫も勉強してる、えらい〜」

『うん。』

「俺も一緒にやっていい?」


『……勝手にすれば』
そう言いながら、内心少しドキドキしていた。


ページをめくる音と、鉛筆の擦れる音。
会話は少ないけれど、静かな空気が心地よい。



視線が交わるたびに、空は小さく笑って、
雫はその笑みに何度も戸惑いながら――少しずつ慣れていった。



気づけば、空の存在は自分にとって“特別”になっていた。



理由なんて分からない。
ただ、気づけば探している。
視界のどこかに、あの笑顔を。



それが出会ってからの3週目の終わりの頃、静かに胸の奥で形になり始めていた。