『……ねえ空、外見て、夕焼けすごいよ』



「雫、好きだよね。あの色」



『うん……空と見るのが……いちばん好き』




小さな声でも、空はちゃんと聞いてくれる。


「じゃあまた見に行こうな。歩けるようになったら、ゆっくりでいいから」



『うん……ゆっくりでいい……』



本当にゆっくりでいい。


本当はもっとゆっくりがいい。


一生夕日を見に行けなくてもいいから
もっと一緒にいたい。



でも、それを言ったら泣きそうで、私は言葉を飲みこんだ。




代わりに、そっと空の袖を引っ張る。



『……ぎゅーして』

「うん」


空が今、そばにいて、

私を抱きしめてくれる。



それだけで、今日も生きていたいと思える。



まだそこまで悪くなってはいない。



でも、確実に少しずつ削られていく体の感覚を、私は誰より知っている。




それでも――



空と過ごすこの何気ない時間は、



終わりが来る未来をほんの少しだけ遠ざけてくれた。