この命のすべてで、君を想いたい

そのとき――

コン、コン。

ノックのあと、ドアが開く。

「……よかった。沙月たちも来てたんだな」


裕大だった。


思ったより落ち着いた表情だけど、
雫を見る目には驚きと安堵が混ざっていた。

『裕大……』

名前を呼ぶと、裕大は深く息をつきながら近づく。

「雫、ご飯食べたか?」

沙月が「なにそれ、お母さんかよ」と呟き、
蓮太郎も「お母さんモードな」と言う。



雫は苦笑いした。




『うん、ちゃんと食べてるよ。心配かけてごめんね』




裕大は何か言いたげに雫を見ていた。

その“空気”を、沙月と蓮太郎はすぐに察した。


沙月は明るく笑って言った。

「雫、また来るからね!今日話せてほんとによかった。無理しないでね、ほんとに」



蓮太郎も手を振る。

「じゃ、また来るわ。
 次はなんか差し入れでも持ってくる」



雫は二人に微笑んだ。




『うん……ありがとう。ほんとに。
 今日は来てくれて嬉しかった』



沙月と蓮太郎は病室を出ていく。
扉の閉まる音が静かに響く。




残されたのは、
雫と裕大の二人だけだった。



裕大はその静けさの中で、
どこかぎこちなく、でも優しい声で言った。


「……雫。
 俺も、話したいことがあるんだ」



雫はうなずいた。



『……うん。私も』




数週間前、絶望のどん底にいた二人の時間が、またゆっくり流れ始めた。