この命のすべてで、君を想いたい

雫の病室には、さっきまでの涙の余韻と、
少しずつ戻り始めた“いつもの空気”があった。

沙月が、ベッド横の椅子に座りながら言う。




「ねぇ雫、髪ちょっと伸びた?
 前より柔らかくなってる気がする」



『それは……病院のシャンプーが高いやつだったからかも』



雫が照れたように笑うと、蓮太郎が肩をすくめた。




「なんだよそれ。俺より良いもん使ってんじゃん」



「蓮太郎が使ってるものより良いものなんて、世の中いっぱいあるでしょ」




沙月が突っ込むと、蓮太郎が「おい」と言い、
雫が思わず声を漏らして笑った。




こんな他愛ない会話が、
あの日以来どれほど恋しかったか。



胸の奥がじんわりと温かくなっていく。