この命のすべてで、君を想いたい

すべてが唐突で、不可解で、理解が追いつかない。

 

「空……大丈夫か」

裕大の声が震えているのが分かる。

空はゆっくり首を振った。

大丈夫じゃない。

けれど “大丈夫じゃない” と言えるほど頭も心も動いてくれていない。

 

胸の奥がひどく冷たかった。

時間だけが勝手に進んで、空の心だけがそこに取り残されていた。

 

――雫は、本気で、俺を嫌いになったのか?

――昨日まで笑っていたのは、本当に全部「演技」だったのか?

――あの人は……誰なんだ?

 

何ひとつ、答えが出ない。

むしろ考えれば考えるほど、足元が崩れていくみたいで立っているのがやっとだった。

 

春の風が吹き抜ける。

空の頬を撫でたその風は冷たく、どこか痛い。

さっきまで隣にあった温度が、もうどこにもない。

 

「……雫」

名前を呼んでも、返事はない。

届くはずもない。

 

空はゆっくりと顔を上げた。

屋上の扉は閉じたまま。

その向こうに雫がどんな顔でいるのか──空はまだ、まったく想像できなかった。

 

ただひとつだけ確かだったのは、

この瞬間の空は、雫が泣いて走り去っていることを、まだ何ひとつ知らない。