この命のすべてで、君を想いたい

背中が風に揺れ、扉が開く




雫の背中が扉の向こうに消えるまで、空はただ立ち尽くしていた。


思考が、まるで停止していた。



――なんで。

――どうして。

――何が起きた?

胸の奥で言葉にならない疑問が渦巻いているのに、声はひとつも出てこなかった。

 

扉が閉まる音が屋上に響いた瞬間、


ようやく呼吸を思い出したように、空は小さく息を吸った。


でも、足は動かなかった。


追いかけようと思えば、すぐに追いかけられた。


走れば、あの細い背中に手が届いたはずだった。





なのに。

――動けなかった。



心が現実を拒絶していた。




さっきまで目の前にいた雫の表情を何度も思い返す。

怒っていたわけでもない。

泣いているようにも……見えなかった。

ただ淡々と、冷たく、知らない人みたいに突き放していた。

だからこそ。



空は最後の最後まで、雫の本当の苦しさに気づけなかった。


「……なんだよ……これ」


思わず零れた言葉は、誰に向けたものでもない。

 

蓮太郎も沙月を抱き寄せたまま呆然と立ち尽くしている。


沙月は泣いている。



でもその涙の意味も、状況も、空にはまだ整理できなかった。