昼休みの屋上に出た瞬間、春風がふわっと吹き抜けて、
「いつも通りだ」と思った。


みんなで「どこ行く?」なんて、わちゃわちゃしている。

沙月はいつも通りテンション高く、
蓮太郎は相変わらず適当に乗って、
裕大はそれに呆れながら笑って。

――そして、その真ん中に、雫がいる。

なのに、なぜか遠い。

雫のお昼ご飯は開けられていない。



でも俺は、それを指摘しなかった。


雫は無理して笑うとき、ちょっとだけ目元が固くなる。


今日はその“固さ”がずっと取れなかった。

「雫はどこ行きたい?」

いつも通り聞いただけなのに、
返ってきた声はかすかで、震えていた。

『…どこでもいいよ』

その声を聞いた瞬間、胸がざわついた。

「どうした?体調悪い?」
気づけば、雫の顔を覗き込んでいた。
彼女の瞳の奥にある、“何か”が怖かった。

雫は視線をそらしたまま、笑わなかった。

――おかしい。

そう思った時だった。